「変わり果てた母の姿に驚きました」
実際、虐待はあったのかなかったのか――。現地で取材を開始したところ、記者の元に次々と入所者の家族が集まりだした。そして、こう訴えたのだ。
「私の母が『X』に入所したのは2016年8月。当初は定期的に面会していましたが、2020年以降、面会はほとんどできなくなっていました。そして2021年7月11日に102歳で亡くなりました。死因は肺炎と診断されましたが、本当にそうなのか。
実は亡くなる6日前の夜にベッドからの転落事故があったんです。母は翌朝に病院へ運ばれ、私は転落から2日後に1年以上ぶりに母に面会しました。母の呼吸は薄く、おでこのたんこぶは紫色のお盆のように大きくひどいものでした。変わり果てた母の姿に驚きました。
転落した経緯について説明が人によって違うことも気にかかりました。報告書にはおむつ交換時とありますが、ナースはシーツ交換時、施設の責任者からは下着の交換時と説明を受けました。転落自体も、最初は施設側のミスで転落させてしまったという感じで携帯に電話がありましたが、気づけば母が自ら落ちたかのような説明に変わっていました。
不安に思って、後に病院に情報開示をお願いしたところ、診断書などの資料では病院へ搬送された日の朝に転落したかのように書かれていたんです。
実際、私が母に面会に行ったとき、職員が母に怒鳴っている場面を見たこともあります。普段はもっと酷いことをされていたんじゃないかと思うと、母が可哀そうで……」
Aさん(70代男性)
「2021年8月に、父親の身体についたアザの写真を見せられました。施設内で『腕などを殴られていた』と。虐待を心配してほかの施設を探し始めた矢先、父は結核で亡くなってしまいました。
施設への入所後は認知症が進んでまともな会話はできませんでしたが、面会できていた頃は『帰りたい帰りたい』と訴えていたので、やっぱりなにかあったんじゃないかと思ってしまう。
そんなにいい介護を求めていたわけではないです。ですが、普通の介護を受けていれば、今も父は生きていたんじゃないかなって思ってしまいます」
Bさん(60代女性)
「母親が殴られるなどの暴行を受けていると聞いて、施設を変えました。施設の責任者とは頻繁にやりとりをしていたのに、開示されたケース記録などを見ると、連絡がなかったひどい痣の写真もありました。不信感を募らせています」
Cさん(60代女性)
ただ、虐待を受けたとされる入所者約10人はいずれも認知症が進んでいたり、亡くなっていたりで、本人がこうした被害を直接訴えたわけではない。施設での虐待の様子を音声や動画で記録したものもないという。