「木曽路はすべて山の中である」と書いたのは島崎藤村だ。木曽路とは江戸と京都を結ぶ中山道の道筋の一部で、いまはこの区間、中山道に並行して中央本線が通っている。木曽路とは、正確には贄川宿あたりから馬籠宿あたりまでの木曽の山中のことをいうらしいが、まあそこはおおざっぱにいって塩尻ということにしても問題ないだろう。

 諏訪湖方面から塩尻峠を越えてやってきて、ここから木曽路をまっすぐ西に下ってゆく。はたまた北へ進路を変えれば長野県第二の都市である松本へ。山に囲まれた町でありながら、塩尻は昔ながらの交通の要衝なのだ。そして中山道を歩いて旅するような時代ではなくなっても、いまも塩尻は鉄道旅においてもキーになるような駅である。

中央本線「塩尻」には何がある?

 塩尻の町と塩尻駅があるのは、長野県の真ん中よりも少し南に下ったあたり、東からはJR東日本の中央本線(中央東線)、西からはJR東海の中央本線(中央西線)が伸びてきて互いにぶつかったところだ。

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今回の路線図。JR東日本とJR東海の境目に位置する「塩尻」

 どちらも同じ中央本線といいながら、相互に直通する列車は基本的には存在せず、むしろ北に延びる篠ノ井線に乗り入れて松本方面を目指すのが王道のパターン。つまり、塩尻駅はJR東日本とJR東海の境目の駅であり、同じ中央本線でも乗り換えが必要になるという、そういう扱いの駅である。

“境目の駅”「塩尻」には何がある?

 もちろん中央本線は東も西も重要性の高い大幹線のひとつなので、どちらも特急列車が走っている。東には「あずさ」、西には「しなの」。ともに篠ノ井線に直通するのも特徴になっている。すべてではないものの、特急列車も塩尻駅に停車する。

 ということは、塩尻駅も特急列車が停まる駅というだけあっての風格をもつターミナルだ。立派な橋上駅舎、その東側の駅前に出ると大きな広場があって、観光案内所から飲食店から、そういったものがまとまっている。

 

 山の中の駅だから、もちろん駅そのものも山に囲まれている。そうした中でも平地部に塩尻の市街地があって、駅前の道をまっすぐ東に歩いていけば住宅地の中を抜けてほどなく塩尻市役所へ。

 その角を南に折れて進むと、昔ながらの商店街が連なるような一帯もある。特急列車が停まる駅とはいっても、山あいの人口6万7000人程度の町だ。中心市街地の規模は小さい。

「まずホームからしてワインである」とにかくひたすらに“ワイン押し”。なぜ…?

 そんな塩尻だが、町並みよりも何よりも、駅のホームに降り立った時点でどうしたって気になることがある。塩尻駅、とにかくひたすらに“ワイン押し”なのだ。