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 作品ごとに役を演じ分けるにとどまらず、ひとつの役を演じても、その人物が抱えた性格や感情の層を繊細に表現することができる。その点において浜辺はこの世代の女優では随一だろう。『賭ケグルイ』の夢子の二面性は先に書いたとおりだが、『君の膵臓をたべたい』の桜良も、明るく振る舞ってはいるが、その心の内では不安などさまざまな感情が渦巻いていた。それを浜辺は、どこか芝居がかったしゃべり方をするなどして演じてみせ、桜良が不安を隠すため無理している感をうかがわせた。

『君の膵臓をたべたい』(2017年)

 こうした演技力を身につける大きなきっかけとなったのが、『まれ』と同じく2015年に出演した単発ドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』である。このときヒロインに抜擢された浜辺は、初めて役に長時間向き合う経験をしたという。それが功を奏し、細かな感情の変化を見事に演じ、一部で高く評価されることになる。

 その後、『君の膵臓をたべたい』で日本アカデミー賞など数々の映画賞で新人賞を受賞し、期待の若手として脚光を浴びると、活動の場はますます増えていった。この間、高校入学を前に15歳で上京している。ちょうど北陸新幹線が金沢まで延伸し、東京に通いながら仕事を続けることもできたが、「東京にいたほうがもっと仕事に時間を使えるから、できれば上京したい」と思い、決断したという(浜辺美波『気ままに美波』日経BP、2019年)。先述のとおり高校卒業後、大学には進学せず、俳優に専念すると決めたのも、仕事に集中しやすい環境をつくりたかったからだった。

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©文藝春秋

アンチの声に思うこと

 卒業直後こそ、大学に進学した友人をうらやましいと思ったことはあったものの、それからの2年間は、映画・ドラマに立て続けに出演し、CMへの起用も増え、充実したものとなった。もし大学へ行っていたら、とくに時間を要する連続ドラマをはじめ、これだけの作品をつくることはできなかったと、本人は振り返る(『日経エンタテインメント!』2021年6月号)。

 これだけ売れっ子になると、当然、いい評価だけでなく否定的な評価も出てくるものだが、これについて彼女は、《人の評価よりも、自分の反省が次の作品との向き合い方に一番関わってくるかなと思っています》と話す(『an・an』2019年4月24日号)。ただ、ネットでエゴサーチはよくしているらしい。

《いいコメントはもちろんありがたいなと思うのですが、悪いコメントを見ても逆に嬉しくなるというか。「あ、そんなことを思う人がいるのか」という発見にもなりますし、そういう人にまできちんと届いているというか、嫌われるまでその人の意識に入ることができているというところに、「へへっ」と思う感じがあって。そういう部分のメンタルは結構強いのかなと思います》(前掲)