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1940年の《銃後奉公強化運動 国を護った傷兵護れ》の中央に輝いているのは、戦地において名誉の負傷を負った兵士に贈られる傷痍軍人徽章であり、四方から伸びる手が、彼らへの援護の必要性を説いている。
現存する戦前期の日本製ポスターを見る限り、本作のように主題が画面の完全な中央に配され、線対称にも点対称にもなる作品はほとんど存在しない。もっとも、こうした画面構成は、徽章を最大限に生かそうとした結果かもしれない。
しかし、ランシュタインの作品に、会社の社章を主題とした《オーウィン無線装置》が存在することを知ってしまうと、後者を翻案とした可能性も、捨てきれなくなってくる。
徴兵のために利用された“子供の影”
影がその持ち主の本当の姿や、将来の姿を映し出すことは、古くから語り継がれてきたことである。従って、舞台美術から児童書まで幅広く手掛けた、ポンペイによる《『小学校二年生のための読本』内のイラスト》や、1940年2月分の『東京朝日新聞縮刷版』の見返しを飾った《徴兵保険の開祖 第一徴兵 契約高拾四億円》は、決して新しい表現ではない。しかし、子供の影が共に立派な軍人として描かれている点は、戦時期ならではのものである。
ちなみに、『小学校二年生のための読本』の著者は、イタリアの児童文学者・オルネッラ・クエルチァ・タンツァレッラであり、同書はムッソリーニ政権下において、国定教科書として使用された。