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日本の宣伝デザインの源流にはナチスの影響が…!? 20枚の図版で振り返る“独自発達を遂げた日本製ポスター”の知られざる歴史

日本の宣伝デザインの源流にはナチスの影響が…!? 20枚の図版で振り返る“独自発達を遂げた日本製ポスター”の知られざる歴史

『ポスター万歳 百窃百笑』より

2022/09/17
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 いろいろなものが乗った手を描いた、シュナイダーによる《売りたいものを持っている人は…》は、不要品の供出を呼びかける、ドイツのプロパガンダ・ポスターである。

ハンス・シュナイダー《売りたいものを持っている人は…》1936年1月 『ゲブラウスグラフィック』第13巻第1号

 そして本作は、手の向きこそ異なるものの、1939年の《臨時国勢調査 商店ト物ノ調査》に翻案とされた。戦時期の日本においては、時局の変化に応じて、国民に周知すべき事項が次々と生まれたことから、プロパガンダ・ポスターの需要は年々高まった。

《臨時国勢調査 商店ト物ノ調査》1939年8月 京都工芸繊維大学美術工芸資料館 AN.5383-30

 従って、外国において編集発行された広告専門誌に掲載された作品を、翻案として新作を世に出す行為は、この時代にも継承された。

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戦時中に行われていた応募総数2300点超のコンペ

 1939年12月の加藤正による《支那事変国債》は、4人の人物が斜めに居並ぶ様子が、フィックス=マッソーによるスペイン内戦のポスター《我が部下よ、武器よ、前線の爆薬よ》と同じであり、後者を翻案としたものと思われる。

ピエール・フィクス=マッソー《我が部下よ、武器よ、前線の爆薬よ》1937年1月『アール・エ・メチエ・グラフィック』第56号
加藤正《支那事変国債》1939年12月 函館市中央図書館 1292

 戦時債券のポスターは原画の公募が頻繁に行われ、前者も前年に実施された懸賞募集において、2300余点の中から1等を獲得した作品である。この種の企画は当初こそ成果を上げたものの、回を重ねるにつれて、国内外の過去作品を翻案としたものや、入選を目的とした奇をてらった図案の応募が増加し、上位入選者には固定化も見られるなど、残念ながら低迷の一途をたどった。