そうか、いま不安なのは努力が足りないのが、どこか自分で分かっているからなのか。自信というのは、自分で積み重ねて作っていくものなのだと明確に意識した瞬間だった。
もう1つは、「自分がその時に持っている力以上のものは出ない」という当たり前のことに気が付き、受け入れて自然体でいられるようになったことも大きいと思う。
私が将棋盤の前で出来ることは、一生懸命考えて、自分が考えた手を信じて指すことだけなのだ。「自信」という言葉は、よくできている。
「緊張のドキドキもワクワクも全部楽しんでおいで」と伝えると…
未だに大きな舞台では緊張すると書いたが、その緊張を楽しもうと思えるようになった。
ここまで来られたのも自分の実力だし、もし失敗したとしても、その結果も自分の実力だと受け入れて、また頑張ればいい。
緊張と向き合うというのは、自分の感情と向き合うということだ。怖がってなくそうとするよりも、理解してプラスに付き合っていける方が、きっといいだろう。
「その舞台に立って弾けるのは、たくさん練習をしてきたあなただけだよ。緊張のドキドキもワクワクも全部楽しんでおいで」と言うと、「わかった」と言った。
発表会当日、会場に着くと、舞台には大きなグランドピアノが置いてある。会場はあまりにも静かで、ピアノは大きくも小さくも見える。
出番が来て、先生のところへ送ると、先生も「楽しもうね」と声をかけていた。
アナウンスと共に出てきて、先生とゆっくり一礼をする。色と形を長女と相談しながら作った銀色のドレスが、よく似合っていて、大きくなったなぁと感慨深く拍手をする。
長女が1つ成長した瞬間
連弾が無事に終わり、先生が袖にはけると、1人で弾く曲が始まった。順調な滑り出しに、「そのままそのまま!!」と念を送った。めちゃくちゃドキドキする。
曲の長さとしては1分ほどなのだが、終盤の1分将棋よりも明らかに長く感じる。
普段は応援してもらう側になることが多くて忘れかけていたが、人を真剣に応援するのはこんなにも大変なのだと身をもって実感した。応援してくれる人たちは凄い。
無事に完奏し、今度は1人でゆっくりと一礼する。その表情が少し誇らしげに見えて、思わず笑ってしまった。
きっとこの瞬間が、長女にとって1つ成長した時なのだろう。
舞台袖に迎えに行き、ひとしきり一緒に喜んだ後、「どうだった?」と聞くと「思ったより緊張しなかった」とあっけらかんと言った。緊張しいだけど本番に強いタイプなのは、きっと親譲りかな。