私は前職で赤字雑誌の再建を任されることが多く、時には複数の雑誌を兼任しながら立て直してきました。しかし共感力だけでは誌面の内容を良くすることしかできません。より確実に読者に買ってもらうために、マーケティングという普遍的な知恵を経営大学院で学びたいと考えたのです。
雑誌を守るには「数字を理解しないとダメ」
なぜそういう発想が出てきたかを掘り下げると、20代の頃の経験に遡ります。
私は1997年に大阪大学文学部を卒業し、主婦と生活社に入社。4~5年目で初めてプチ編集長のような立場になりました。“プチ”と付けたのは、雑誌の内容は任されていたものの、採算の最終的な責任は上司が持ってくれていたからです。
20代向けのインテリア誌で、このジャンルでは破格の10万部を突破。その売れ行きと、読者から「こんな雑誌がほしかった」とたくさん届くハガキに、私はすっかりいい気になっていました。
ところがある日、幹部が居並ぶ会議に呼び出されて「4000万円の赤字だから休刊にする」と告げられたのです。根拠として示された資料が理解できず、経理へ駆け込んで「売上と利益の間にたくさん項目があるのがわからない」と泣きつきました。採算を気にしてこなかったので、販管費って何? という状態でした。価格設定や広告は「今のままで読者が喜んでいるんだし」と深く考えなかった結果、売れているのに赤字という事態に陥っていたのです。
この失敗で、「大好きな雑誌を守るには数字を理解しないとダメだ」と骨身にしみました。
休刊目前まで沈んだこの雑誌はなんとか起死回生に成功。上司のほうが驚いて、逆に「あいつは数字がわかる」と評価され、赤字雑誌の再建を任されるようになったのです。思えば父が理系人間で、私の高校時代に数学と物理の家庭教師を付けてくれていたのも数字を考える土台になったかもしれません。
ただ、2010年代に入ると、紙媒体そのものが厳しいなと感じる機会が増えました。象徴的なのは書店が急減していたことですが、産業構造の問題もありました。