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選挙ほど人間のきれいなものと汚いものが見えることはない

 選挙はだれでも好きな人はいないでしょうが、選挙ほど人間のきれいなものと汚いものが見えることはないように思います。選挙民の方が、損得抜きで一所懸命に応援してくださるのを拝見すると、ほんとうにありがたいと感激します。もともと選挙というものは、人の心をいただくようなものだと思います。ですからその反面、裏切られたり、だまされたりということも、日常茶飯事にあるのです。そういう面では、つくづくいやだと思うこともございますが、といって、もういやだからとほうりだして寝てしまうわけにもまいりません。

安倍晋三氏 ©文藝春秋

 わたくしはそういう中でも、国政にたずさわる者を送り出すためには自分の身を捨てても無我夢中でやる、ということに生き甲斐を感じておりましたが、それは、わたくしにも政治家の血が流れているからなのでしょうか。

 それと、選挙はいろいろな方々との出会いもあって、考えようによってはたいへん勉強にもなるのです。選挙区をくまなく歩くわけですから、それこそオシメののれんをくぐって一軒一軒お訪ねすることもあり、ふつうだったら来ることもなく、見ることもないところへ行って、ふだんでは聞くこともできないお話をいろいろ聞かしていただけるのです。それだけ見聞を広め、経験できるということは、貴重な体験でございました。

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婦人部の信頼関係

 いずれにせよ、選挙は主人のときだけでたくさんだと思っておりましたが、息子がやるとなればいちど当選するまでは知らん顔はできません。一所懸命に応援してくださる方に対しても、自分でできることはしなければ申し訳がないような気がいたします。ましてや主人の地盤は、わたくしたち婦人部が支えてきたという自負もございます。出馬するのは晋三であっても、後援会の方々へのご挨拶は、これまで主人を応援していただいた方々とのおなじみが古いのですから、わたくしが出ていかなくてはならないと思います。

 なにしろ後援会には三代目という方が増えておりまして、

「祖母が初めて安倍先生の後援会に入れていただきまして、母がその後を継ぎ、私は母が嫁に行った先の娘でございます」

 という方がいらっしゃるように、女系ネットワークは健在なのです。

 かつて主人の選挙準備で地元へ出かける支度をしておりますと、主人が、

「いまからどこかへ旅行に行くのか」

 と不審そうに聞きますので、

「なにが旅行なものですか、選挙区へ行くんじゃありませんか」

 と言うと、

「ああそうか、代議士にでもなったつもりでしっかりやってきてくれ」

 と、照れ隠しに申します。

「なにを言ってるのかしら。それなら向こう張ってこちらが選挙に出ることにしましょうか。こちらのほうが票が多かったりしてね」

 と、久保さんと2人で笑ったことがあります。それほど、婦人部の信頼関係は深いのでした。