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選挙は人の心をいただくようなもの

 平成3年7月、晋三は次期衆院選に山口1区から立候補することを表明いたしました。事務所の看板も、晋太郎の名前から「あべ晋三」に変え、いつ選挙戦に突入してもいいように態勢ができているようです。本人も父親の選挙を何度も手伝っておりますし、選挙に出るということがいかにたいへんなものかは、重々承知しているだろうと思います。晋三の嫁の昭恵も、初めは政治家の妻になることの不安が大きかったでしょうが、いまは選挙運動にも、政治家の留守を守ることにも、だんだんと覚悟ができていると思います。

 とはいっても、嫁は純粋に東京育ちの人ですから、それでなくても人付き合いのむずかしい田舎で、それが票に絡みますと、かなりたいへんな思いをすることでしょう。これまでの生活とガラリと変わって、とまどうことも多いはずです。「初めてでぜんぜんわかりませんから、お母さま、教えてください」と嫁も言っておりますから、わたくしもいままでの経験をもとにして、アドバイスはしてあげたいと思っております。

 たとえば、地元で年配の方の会合に出ますと若い者がどうしていいかわからないと申しますから、

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「わたくしだって初めはそうでしたから、そんなに心配しないで自然にしていらっしゃい。かえって構えすぎると、皆さま方に溶け込みにくいものよ」

 というように話しております。

安倍洋子氏 ©文藝春秋

 これまでわたくしが経験してきた選挙は、父の応援では「娘の目」で見ている距離がございました。主人のときには当然「妻の内助」ということになり、苦しいことも喜びにも一体感を味わいました。そしてこんどは息子の手伝いですから、内助は嫁に任せますが、距離をおいて見る余裕もなさそうで、つまりは「母の心」で引いたり押したりする陰の立場になると思います。晋三が主体でやるわけですから、わたくしが前面に出るような形は避けますし、そのへんは前より楽と言えば楽かもしれませんが、かえって陰で心配することはいろいろありますので主人の選挙よりも心配、というのがホンネなのです。