「時代の変化がこれだけ激しいのだから、教育ももっと変わらなければいけない」とよくいわれる。しかしそれこそが思い込みではないだろうか。いや、たしかに教育が変わらなければいけない点はたくさんある。でもそれは、必ずしも時代の変化に敏感に適応することではないと教育ジャーナリストのおおたとしまささんは言う。その真意を、最新刊『子育ての「選択」大全』から抜粋・再編集し、前編・中編・後編にわけて紹介する。

※注:「VUCAな時代」とは、正解がない時代、先行き不透明な時代のことを意味します(Volatility/変動性・Uncertainty/不確実性・Complexity/複雑性・Ambiguity/曖昧性の頭文字)。

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子どもにせこい損得勘定を教えない

 やり抜く力のところでも、エージェンシーのところでも、スペシャリティーのところでも、「自分軸」という言葉が出てきました。

 自分にとって究極的に大切なものは何なのか、自分は何をしているときにいちばん幸せなのか……。そんなことを自覚していることだと言い換えられます。

 「夢をもて」みたいな話ではありません。ましてや「目標を設定しろ」みたいな話ではまったくありません。夢とか目標って言語化されているものですよね。社会の中での自己実現のニュアンスもあります。

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 でも自分軸っていうのはもっと抽象的でとらえどころのない価値観です。社会一般の価値観からかけ離れた、自分が自分でいるために大切にしなければいけないことです。誰にでもあるはずなのに、ついこれを手放してしまうから、木枯らしに舞う木の葉のように、世俗的な損得勘定に振り回される人生になってしまうのです。変化の激しい時代にはなおさら、ぶれない軸が必要です。

 でも、「自分軸をもて」と言われてもてるものでもありません。

 どうしたら確固たる自分軸をもてるようになるのか。もちろんはっきりしたことは誰にもわからないのですが、私のこれまでの取材経験をもとに言わせてもらえば、「ぼーっとする時間」をたっぷりもつことではないかという気がしています(図3)。

『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)より。イラスト(C)玉井麻由子(MORNING GARDEN INC.)

 ひまなときこそ、どうやってこの時間をすごそうかと模索します。自発性や主体性の芽生えです。自分が、どんなことが好きで、どんなことをしているときに幸せを感じて、どんなことを欲しているのかがわかってくる時間でもあります。

 私が尊敬する教育者たちは、子どもがぼーっとしていたら、その時間を邪魔しません。そういう時間にこそ、子どもたちは成長しているのだと口をそろえます。