「時代の変化がこれだけ激しいのだから、教育ももっと変わらなければいけない」とよくいわれる。しかしそれこそが思い込みではないだろうか。いや、たしかに教育が変わらなければいけない点はたくさんある。でもそれは、必ずしも時代の変化に敏感に適応することではないと教育ジャーナリストのおおたとしまささんは言う。その真意を、最新刊『子育ての「選択」大全』から抜粋・再編集し、前編・中編・後編にわけて紹介する。

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新しい言葉に過剰反応しない

 正解がない時代、先行き不透明な時代といわれています。ちょっとイケてるひとは「VUCAな時代」なんて表現も使います(Volatility/変動性・Uncertainty/不確実性・Complexity/複雑性・Ambiguity/曖昧性の頭文字)。

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 VUCAな時代を前提にして、OECD(経済協力開発機構)は、「キー・コンピテンシー」という概念を提唱し、それに基づいてPISA(学習到達度調査)を設計しました。「国際的な学力調査で日本が1位から3位に転落した」などという報道がされるときのあの学力調査です。

 さまざまな立場の組織や人物がそれぞれに、これからの時代を生きていくうえで重要だと考えられる「コンピテンシー」(≒能力)を定義しようとしました。それらを総称して俗に「21世紀型スキル」と呼びます。

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 そんな言葉が登場すると、子育て中の親としては「それをわが子に身につけさせないと! 早く言ってよ! で、それは何?」って焦っちゃいますよね。

 でも安心してください。結論を先に言っちゃえば、キー・コンピテンシーだろうが、21世紀型スキルであろうが、このあと出てくる非認知能力やら社会情動的スキル(ソーシャルスキル)であろうが、必要なものはぜんぶ、もともと子どもに備わっているということです。

 原始人の時代から人間が意識せずとも発揮してきた複雑な能力を、細かく切り分けて、それぞれに名称をつけただけです。牛の体の各部位に、ハラミとかロースとかカルビとか、人間の都合で名称をつけるようなものです。

 人間の体でも、健康のためには大臀筋(お尻の筋肉)を鍛えるのが大切だとか、いやインナーマッスルを鍛えるのが重要だとか、いろいろいわれますけれど、ぜんぶ連動しているんですから、それぞれ大事に決まっているじゃないですか。