余市から小樽までは通学生が多数乗車
銀山から下り勾配を駆け下りて然別、仁木と停車していくうちに平地になり、やがて並行する道路沿いに民家が建ち並ぶ地域に入ると、10時26分、定刻通りに余市到着。
ホーム上には小樽へ向かう年輩の観光客グループのほか、クラブ活動での登校と思われる高校生たちが並んで待っていた。長万部から120.3km、14番目の停車駅にして初めて見る、地元客多数の光景だ。鉄道ファンらしからぬ観光客や高校生たちで賑わう車内を見ると、「本当にこの区間も廃止してしまうのか?」との素朴な疑問は拭えない。
この余市から小樽までの区間は、JR北海道が平成28(2016)年に示した「当社単独では維持することが困難な線区について」の中で「単独維持困難」の指標とされた「輸送密度(旅客の1日1kmあたりの平均人数)が2,000人未満」を上回る一定の旅客需要の実績がある。そのため、地元の余市町は第3セクター方式での鉄道存続を強く望んでいた。
結局、第3セクター方式では経営難が免れないとの予測から廃止やむなし、との結論に至ったが、この区間は他の「維持困難線区」とは異なり、「新幹線を造ったら原則として並行在来線はJRから切り離す」という別のルールが廃線方針の主因になっている。自分の町に停車しない新幹線ができることで、他の線区であれば存廃の議論の対象にならない程度の利用実績がある町内の鉄道路線が廃止されてしまうとあっては、余市町がそう簡単に納得できないのも理解できる。
まもなく左手に日本海が見えてくる。最後の停車駅・塩谷を出たディーゼルカーは、“山線”最後の上り勾配を越えて小樽の街に進入。10時52分、定刻より1分遅れで小樽駅3番ホームに到着した。
乗降客で雑踏する改札口は、旅客列車が1日4本しかなかったり利用者が少なすぎて廃駅まで行われたりしている“山線”を通り抜けてきたばかりの旅行者には、全くの別世界に感じられた。
改札口前に、「北海道新幹線 2030年度末 新小樽(仮称)駅開業予定 札幌・小樽→東京 約5時間」という看板が掲げられている。
新幹線はこの小樽駅とは別の新駅に停車するが、小樽~札幌間の並行在来線は安定した旅客需要が見込めるとして、新幹線開業後も引き続きJR北海道が運営することになっている。あと8年あまりの後、たった今乗ってきた“山線”は、果たして本当に全線廃止されているだろうか。
写真=小牟田哲彦
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