応援上映が話題となったのは、2016年にアニメ映画『KING OF PRISM by Pretty Rhythm(以下、キンプリ)』が応援上映の映画としてSNSを通じて口コミで広がり、異例のロングランを記録したことがきっかけでした。
本作は応援上映を前提に制作されており、セリフのところで一定の間が設けられていて、そこでは観客によるアフレコが可能なのです。つまり、登場人物によるセリフが「コール」となって、観客がその返事となるセリフを発声することが「レスポンス」になっている、コール・アンド・レスポンスの形式があらかじめ映画のなかに組みこまれているのです。
また、ストーリーには随所に歌とダンスの場面がでてくるので、そこで観客はキャラクターのイメージカラーや歌の内容に合わせた色でペンライトやサイリウムを振ることができます。すると、映画館が一気にライブ会場になったような演出効果が生まれます。これらの仕掛けは、映画という受動的に鑑賞することしか前提にされていなかったコンテンツを、観客参加型の能動的なコンテンツとして生まれ変わらせました。
私は、この映画を何度もリピートして観にいっているという熱心なファンの人(このような猛者たちはファンのあいだで「キンプリ・エリート」と呼ばれます)に連れていってもらって一緒に鑑賞しました。ペンライトを借りて、手作りの応援うちわも分けてもらい、準備は万全です。
しかし、掛け声などは「お約束」があるそうで、それがわからないのだけどどうしたらいいの? という私に、エリートさんは「大丈夫です。まずはみんながやることを見て、楽しめばいいんです!」とのこと。なるほど、掛け声などは観客がそれぞれ応援上映でやったことをSNSなどでシェアして、だんだんかたちが決まってきたのだそうです。
上映がはじまるとさっそく、最初にでる制作会社や配給会社のロゴに向かってみんなが「○○、ありがとう~!」と大声援を送るのでびっくりしました。もうここから応援しているのです。
60分間の応援上映はあっという間に終わり、私はストーリーや映像の意味がよくわからないながらも(これは誰でも初見ではよくわからないらしいですが)、終わってみたらとても楽しい気分でいっぱいでした。映画が楽しかった、というよりは、映画を楽しめた!という達成感や清々しささえ感じました。
アニメという2次元のキャラクターたちだったのに、自分が応援して映画に参加することによって、その存在に「触れた」ような気持ちになったことも驚きでした。これは私の能動的な鑑賞でなされたプロジェクション(※1)によって、単なる映像にすぎないキャラクターとのあいだに、擬似的な相互作用が生まれたと思えたのかもしれません。
その後、『キンプリ』のシリーズで制作された続編や『キンプリ』作品中の楽曲に焦点をあてた歌番組形式の作品も応援上映で鑑賞しました。その頃、小学生だった私の子どもも一緒に行ったのですが、はじめて味わったライブのような感覚にすっかり魅了され、すぐに自分の「推し」を見つけていました。参加するという体験がいかに強い影響をもたらすのかを目のあたりにした思いです。
応援上映を「リピート」する人がいる理由
映画館のスクリーンに向かって全力で声援を送る光景は、とても不思議なものです。しかも、何度も通ってそれをする人もいます。ライブや舞台のように生身の人間がパフォーマンスをするのであれば、何度も通うことでちょっとした変化を楽しむこともできるでしょう。
しかし、映画はいつも同じです。声援を送ったからといってパフォーマンスが良くなるわけでもありません。ではいったい、なにが楽しいのでしょうか? なぜ、何度もリピートする人たちがいるのでしょうか?