それは、自分の好きなものを「みんなで」応援することが楽しいからです。
声をだしたりペンライトを振って応援するだけなら、自宅でひとりでもできます。でもそれは、応援上映ほどの楽しみをもたらしてはくれません。
応援上映は、「推し」との相互作用というよりも、「推し」を媒介としたファン同士の相互作用なのです。だからこそ、映画はいつも同じなのに、観客が変わるからリピートして見に行くことになります。何度も観ていれば、同じ映画でも読みこみが深まり、いろいろな解釈ができるようになります。そうなればまた、それをみんなでシェアする楽しみが増えます。
自分の「推し」はみんなの「推し」であるということは、これまでの映画鑑賞でも同じでした。ただ、応援上映はそれを上映中に表現させたことで、静かだった映画館がみんなで参加する祝祭空間へと変貌を遂げたのです。
ベッドシーンで楽器を打ち鳴らし…様々な応援上映
最近では応援上映もさまざまな形式で試みられています。人気作家の石田衣良さん原作でR18 +指定の映画『娼年』では、女性限定の応援上映として楽器の持ちこみが許可されました。
主演の松坂桃李さんのベッドシーンでは、動きに合わせていろいろな楽器が打ち鳴らされて大いに盛りあがり、観客みんなで大爆笑したそうです。なんだか想像しただけでも楽しくなります。
この映画はそんなふうに鑑賞するものじゃない!という意見もあるかとは思いますが、いろいろな観方で楽しんでほしいという制作側の心意気を感じます。でももし、ひとりで観ている時にそんなことをしても、おそらく楽しくはないでしょう。これは、みんなで映画に働きかけるという、応援上映ならではの楽しみ方だといえます。
ハリウッド映画で人気のある『オーシャンズ』シリーズのスピンオフ作品『オーシャンズ8』が日本で公開された時には、ドレスアップ応援上映がありました。出演者の衣装やアクセサリーに合わせたファッションを工夫して、ふだんよりもおしゃれをした観客たちが、登場人物に掛け声や声援を送りながら鑑賞するというものです。これも作中のファッションの祭典やパーティを、観客のみんなで擬似体験できるような楽しさがあります。
映画が映像配信サービスなどによって、いつでも手軽に楽しめるようになったいっぽうで、ひとりでは絶対に味わえない楽しみ方にも関心が高まっていることがわかります。応援上映はまさにそのひとつといえます。
好きなものを誰かとわかちあう喜びは、「推し」をめぐる活動において頻繁に経験する快楽です。実は、これは人間にとって生まれ持った性質ともいうべき、非常に重要なことなのです。