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笑顔で歌える“ハッピーソング”は本当に少ない

 このように、いろんな楽曲をヒットさせてきた彼女だが、笑顔で歌えるハッピーソングは本当に少ない。「中森明菜 スペシャル・ライブ1989 リマスター版」で、シングル24曲を通して聴いたあと、最後に歌った「スローモーション」の明るさと解き放たれた感が本当に凄くて、「この曲の幸福感の特別さ」を痛感した。

 彼女がデビューの切符を掴んだ「スター誕生!」では山口百恵の「夢先案内人」を歌い、「スローモーション」はとてもお気に入りだったという。そんな彼女が片想いや諦め、失恋を歌う使命を背負っていくようになり、「難破船」を作詞作曲した加藤登紀子は「これは絶対明菜さんの歌だ」と太鼓判を押していた。歌い手としては最高の賛辞ではあるが、あのつらい曲を「あなたの歌」と認定されるのは正直かなりヘビーなことだ。

©文藝春秋

 少し前、同じ時期、アイドルとして人気を博した河合奈保子と2人で、互いのヒット曲「スマイル・フォー・ミー」と「スローモーション」を交換して歌っている動画を見た。「スマイル・フォー・ミー」をニコニコ歌う明菜は本当にあどけなくてかわいかった。もし、こういったハッピーソングを数曲でも挟んでいればどうなっていたのかな、と少し思う。

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「水に挿した花」のように、まるで心を削りながら歌う楽曲に強く惹かれ、絶望をこんな風に歌えるのは日本で彼女しかいない、と思う。が、もし復活する日が来たら、弾けるような笑顔のまま歌える歌も、どんどん聴いていきたい。

プライベートを発信してほしいとは思わない理由

 今後、中森明菜はどんな風に活動していくのかは、ひたすら情報を待つしかない。ツイッターのアカウントが公式であることはほぼ間違いなさそうだが、SNSでプライベートを発信してほしいとは思っていない(向いていないと思う)。

中森明菜 ©共同通信社

 ただ、オンラインライブなど、体調に考慮しつつ使えるツールがたんまりとある今、いろんなものを活用して、音楽を発信できるようになっている。それは彼女の活動の追い風にもなるはずだ。

 ここまで待ったんだもの、いつまでものんびり待ち続ける。そんなファンがたくさんいる。その中には、リアルタイムの活躍は知らないけれど、彼女の歌声やパフォーマンスを何かで見て、時を超えシビレた若者も多い。だから、これからゆっくり楽しく歌えるよう環境を整えて、ぜひ復活してほしいと思う。

 新しい時代が、彼女を待っている。