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神戸で出会った“理想的な中華料理屋” 74歳店主がつくる「400円のラーメン」はホッとする味だった!

B中華を探す旅――神戸「春日飯店」

2022/09/20
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 やがて、どんどん入る出前をこなすうちに仕事への意識が高まっていった。いわば町に、お客さんに育てられたのだろう。そして、そうこうしているうちに“友だちの友だち”だった女性が手伝ってくれるようになり、26歳のとき、1歳年下のその女性と結婚した。先ほどから常連さんたちを盛り上げている奥様である。お子さんは、女の子がふたり。なんと並びで商売をしているという。

「7年以上経ったですけど、隣の隣で居酒屋をしてます。お姉ちゃんに『やるか?』いうたら、『うん、やる』っていうから。それで妹が手伝って、姉妹でやってますわ」

 

跡継ぎはいないが…

 娘さんたちのことを話すときには、穏やかな表情がさらに和らぐ。だが、そんなわけで、この店に跡継ぎはいない。

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「もう、いつかは終わりますね。それもそんなに遠い話じゃないです。どっちか欠けたら終わりやし。あの人も74になりますけど、60のときにくも膜下出血で倒れてるんですよね」

 奥様のほうに目を向けながらおっしゃる。そのとき森岡さんは、店で仕込みをしていた。奥様がなかなか来ないのでおかしいなと思っていたら、家で倒れていたのだという。緊急手術をして助かったそうだが、「2人に1人が亡くなり、助かっても半身不随という病気なので、奇跡的だ」と医者にもいわれたのだとか。

 

「当然、もう終わったと思いましたね。それでもあれから14年の歳月があったから、いつやめても不思議はないんです。娘も店が出せたし。もういつやめても、贅沢さえせんかったら食べていけるんじゃないかと」

 結果的には丸く収まったということなのだろう。なにより、2軒先に娘さんがいることは心強いはずだ。事実、毎晩飲みに行っているらしい。心房細動になったため2年前に酒を断ったが、ノンアルコールビールを3本ぐらい飲んでいるのだという。

「家も近いんでね。もう行けば、毎日のように顔見てるし。まあ、幸せっていうたら幸せかな」

締めのラーメンはホッとする味だった

 締めにいただいたラーメンは、とんこつと鶏で出汁をとっているというスープの味がとてもやさしい。長田の製麺所からとっているという麺も香ばしく、するすると喉を通っていく。いい意味で普通。だからこそ、ひとくち食べるごとにホッとする。

「こんなもん、昔のラーメンですから」とおっしゃる。そのとおりかもしれないが、これは58年の歳月があるからこそ出せる味でもあるに違いない。

 

INFORMATION

春日飯店
兵庫県神戸市中央区筒井町3-2-11
営業時間 11:30~14:00、17:00~21:00
定休日 水曜日・木曜日
餃子 350円
豚天 750円
五目焼きそば 650円
八宝菜 650円
ラーメン 400円
焼き飯 500円
瓶ビール 500円

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神戸で出会った“理想的な中華料理屋” 74歳店主がつくる「400円のラーメン」はホッとする味だった!

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