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ゴキブリがいなければ新薬も開発できない

――人間社会の中では、邪魔者でしかないでしょうか?

柳澤 それも間違いです。ゴキブリは、実験動物としても優秀ですから。増やしやすいし、とても丈夫。雑食性のため、実験に使いやすいんです。すなわちそれは、昔からいろいろな実験で使われてきていて、人間の暮らしに役立つ薬の開発などに役立っているといえるでしょう。

――海外や爬虫類愛好家、虫ブリーダーなどの間では「ペットローチ」と呼ばれる、ペット用も存在しているようですね。

柳澤 ゴキブリはペットとしてもとても優れています。まず、飼育のしやすさは僕にとっても衝撃でした。こんな飼いやすい虫もいるんだ!と。ゴキブリは成虫と幼虫が同じような形をしていて、同じような環境に住んでいます。つまり、成虫も幼虫も同じ環境=飼育ケースでまとめて飼育できるんです。クワガタやカブトムシを増やしている人たちから見ると、幼虫と成虫を同じ環境で飼えるというのは、革命的なんです(笑)。

新進気鋭のゴキブリ研究者・柳澤静磨さん(写真:柳澤さん提供)

 ひとつのケースで世代をまわせてしまうのは、飼育するうえで手間がかからない。エサにしても果物の皮や野菜くずなど幅広いものを食べてくれるので、基本足りなくなるということがありません。飼いやすさにおいても、本当にいい昆虫なんですよ。

「家で1匹見つかると100匹いる」は本当か?

――ご著書で取り上げている「ゴキブリ都市伝説」も、大変たのしく拝読しました。

柳澤 「死ぬ直前に卵を産む」「家で1匹見つかると100匹いる」「ゴキブリは人に向かって飛んでくる」という、有名な言説ですね。改めてご説明しますと、まず死ぬ直前に卵を産むのは、そう見えるだけのこと。ゴキブリは卵鞘(らんしょう)といって、卵を収めるガマ口状の袋を体内に抱えているので、スリッパなどで叩かれたり殺虫剤をかけられたりする衝撃で、それが腹部から外れてしまい、あたかも今卵を産んだかのように見えているだけなんです。

「1匹見つかると、100匹いる」という話は、そうとも限らない、というのが答えです。ゴキブリが家屋で繁殖していればその可能性はありますが、彼らは基本、居心地のいい場所やエサをもとめて動き回っています。ですから、たまたま1匹だけ侵入しているということも少なくありません。

「人に向かって飛んでくる」というのはあり得る話ですが、決して攻撃するためではありませんので、必要以上に怖がらなくてもいいのではないでしょうか。ゴキブリは、ハチやケムシのような毒針を持ちません。だから敵に出会っても、攻撃するより逃げたり防御したり隠れたりしてやりすごします。ですから人に向かって飛んで来る場合は、たまたま人を「ちょうどいい高さの着地点」とみなしてのことでしょう。種類や条件によっては飛ぶ能力そのものは、あります。