この夏、ゴキブリ研究者として2冊の著書を世に送り出した柳澤静磨(やなぎさわしずま)さん。全種生きている昆虫を撮り下ろしたことなどで話題を集めた『学研の図鑑LIVE 新版』にも携わった、若手昆虫研究者だ。

 柳澤さんは1995年生まれの27歳。専門学校卒業後に静岡県の昆虫館・磐田市竜洋昆虫自然観察公園に入職している。同園では『ゴキブリ展』を企画し、職場では「ゴキブリスト」を名乗るネームプレートを装着。

「どこまでゴキブリ好きなんだ!」と思いきや、かつては世間一般の人々同様にゴキブリが大嫌いだったという。それがなぜゴキブリの魅力にとりつかれたのか?(全3回の1回目/#2#3を読む)

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ゴキブリスト・柳澤静磨さんに迫る(写真:柳澤さん提供)

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なぜゴキブリを愛でるように?

――ご著書には、生き物が大好きだった幼少時から、ゴキブリが「大嫌い」だったとありますね。

柳澤さんの著書『ゴキブリ研究はじめました』(イースト・プレス)

柳澤静磨さん(以下、柳澤) 子どもの頃、昆虫図鑑にあるゴキブリのページをセロハンテープで封印していたくらいです(笑)。小学校では休み時間になると校庭に繰り出し、虫や小動物を捕まえては観察を楽しんでいましたが、ゴキブリだけはどうにも苦手で。大人になって就職した昆虫館でも、先輩が事務所でゴキブリを飼い出したときは、恐怖で耐えられない思いでいっぱいでした……。

 それがなぜ大好きになったのか。まず大きなきっかけのひとつは、昆虫館の仕事で行った採集旅行です。はじめて訪れた南西諸島は、今まで見たこともないような生き物であふれていました。

ゴキブリ撮影中の柳澤さん(写真:柳澤さん提供)
南の島で採集中の柳澤さん(写真:柳澤さん提供)

 次々出会う生き物に、もう大興奮です。図鑑などで存在は知っていたけど「本当にいたんだ!」と、テンションが上がり続けます。そんなウルトラハイになった状態のまま、夜の採集活動に突入したもので、完全に非日常の世界。そんな状況で出会ったのが、ヒメマルゴキブリでした。

 このゴキブリは、ダンゴムシのようにまるくなることができるんです。その姿は、ゴキブリのイメージを覆し、本当に衝撃的だった。感動し、心奪われました。南西諸島へ行かなければきっと、ゴキブリストを名乗る今の僕にはなっていなかったでしょう。