健康志向時代のお酒の可能性
その意味では、ノンアルコール飲料を含む選択肢が多様化することは、消費者にとっては自由の拡大という意味で歓迎すべきことであろう。
こうした選択肢の拡大という視点からみると、ノンアルコール飲料の選択肢の幅はまだ狭い。
繰り返すが、たとえば、ノンアルコールビールは、ビールの代用品である。飲酒者にとっては、「車を運転する」ときの格好の飲み物であるが、非飲酒者の多くにとっては魅力に乏しい。そもそもお酒を飲めない人が、ノンアルコールビールを求めるとは考えにくいからである。
酒離れが進んでいくと、代用品としてのノンアルコールビールも頭打ちになり、やがては減少に転じるはずである。
もう少し具体的に説明しよう。アルコールの非飲酒人口が、2019年の55.1パーセントからさらに増えて、60パーセントや70パーセントになったとき、アルコールの代用品としてのノンアルコール飲料も今ほどは求められなくなるはずだ。
しかし、多くの人にとって、親しい友人や仕事仲間との会食は楽しみなことであろう。そのとき、お酒を飲めない・飲まない人にとっての定番的な選択肢は、ノンアルコールビールやウーロン茶しかない。これではあまりに寂しすぎないか。
お酒を飲む人も確実に健康志向を高めている。ここに着目して、飲酒者にも休肝日だけではなく、お酒と組み合わせたノンアルコール飲料の摂取を提案することが重要である。要は、医学・疫学研究において明らかにされているJカーブ効果(適量飲酒は一定の範囲内での疾病リスクを下げる)を前提にして、「お酒を飲む日もノンアル」を打ち出すのである。お酒を飲まない人も、ノンアルコールビール以外の多様な選択肢があれば、それを求めるだろう。
先に述べたように、筆者自身もこれを実践している。すなわち、「とりあえずノンアルコールビール」に続いて、本物の日本酒またはワインを楽しむ。ビール好きの方には、クラフトビールとモクテルという組み合わせもいいかもしれない。
こう考えると、ノンアルコール飲料の可能性と視界は、一挙に開けてくるのではないだろうか。逆にいえば、健康志向時代のお酒の可能性と視界を広げることにもなる。
求められるのは、お酒を飲む人も、飲めない・飲まない人も楽しめる、ノンアルコール飲料のさらなる開発だ。そのときに大事なのは、料理とのペアリングであろう。
※1・・・藤野英人(2020)『ゲコノミクス──巨大市場を開拓せよ!』日経BP・日本経済新聞出版本部
※2・・・都留康(2020)『お酒の経済学──日本酒のグローバル化からサワーの躍進まで』中央公論新社