近年、日本のお酒を取り巻く生産の現場では、新規参入者による新たな挑戦がはじまっている。また消費の場でも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響による居酒屋の淘汰や、それによる家飲み需要の高まり、ノンアルコール飲料を含む酒類の選択肢が広がりをみせている。しかし、そうした動きを知らない人も意外といるのではないだろうか。
ここでは、経済学者で一橋大学名誉教授の都留康氏の著書『お酒はこれからどうなるか 新規参入者の挑戦から消費の多様化まで』(平凡社新書)から一部を抜粋。「お酒離れ」が進む日本における、ノンアルコール飲料市場の現状と課題について紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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お酒を飲まない人の増加
お酒が健康によいか悪いかにかかわりなく、体質的にアルコールを受け付けない「飲めない人」や、体質的には飲酒可能でも「飲まない人」もいる。
そもそも、「飲めない人」や「飲まない人」はどれくらいいるのだろうか。図表2は、2019年現在の調査で、お酒を飲まない人の割合を示す。男性で38.1パーセント、女性で70.3パーセントである。男女計の加重平均値は55.1パーセントである。
この数字は、現在と同じ調査方式(医師の問診ではなく自己記入のアンケート方式)がはじまった、2003年の49.4パーセントと比べると増加している。つまり、日本人の成人の過半数はお酒を飲まない。
この図表を詳しく眺めると、いくつか興味深い事実が浮かび上がってくる。
第1に、お酒を飲まない人の割合には、明確なジェンダーギャップがある。主に女性が飲まないから平均値が5割超えになっている。
第2に、女性でお酒を飲まない人の割合は、年代によって上昇(30歳代)・低下(40~50歳代)・上昇(60歳以上)となっている(2019年)。これに対し、男性の飲まない割合は、加齢ととともに連続的に低下して、70歳以上になると上昇する。
第3に、2003年と比較した非飲酒者の増大には、各年齢層で非飲酒者が増えた男性が寄与している。
要は、女性のお酒を飲まない割合の変化には、妊娠・出産などの影響があることが推察される。また、近年の非飲酒割合の増加は、飲む人の母数の大きい男性の影響が大である。また40歳未満男女の「酒離れ」が顕著である。