ウクライナへのロシア侵攻が始まったばかりの頃のことだ。ウクライナ南部の島にロシア軍がやってきた。島にいたウクライナ兵に対して、ロシア軍は投降するように無線で呼びかけた。
ロシア軍艦「スネーク島、こちらはロシア軍艦。繰り返し言う。犠牲を出さないために武器を置いて投降せよ。そうでなければ攻撃する。わかったか? 応答せよ」
ウクライナ兵1「こいつらもfuckしてやる?」
ウクライナ兵2「一応ね」
ウクライナ兵3「ロシア軍艦、go fuck yourself!」
重要なのは最後の言葉の後半部分。日本語では「くたばっちまえ」とか「畜生!」と訳されるが、英語のほうが本来のロシア語の意味に近く、「ファックユー」の変形バージョンだ。アメリカのテレビ番組では、「ピー音」で消されてしまう類の放送禁止用語である。
この兵士のやりとりが録音されて残っており、しかもこのウクライナ兵たちは当初殺されたと思われていたが生還した。人々は歓喜し、この言葉が流行語のようになったのだ。
街中のよく見える場所で「ロシア軍艦、go fuck yourself!」と書かれた看板をいくつも見た。
活用バージョンで、「プーチン、go fuck yourself!」という看板や、コーヒー粉のパッケージにもなっていた。
さらには記念切手まで発売された。
切手にはロシア軍艦に向けて中指を立てているウクライナ兵士が描かれている。切手を発売するとなれば、政府の意向もあるだろう。
しかし同時に、人々が喜んで広めているようでもあった。取材中に2度ほど私も(やむを得ない状況で)この言葉を言ったことがある。その際には避難民のウクライナ人は大笑いして喜んでいた。
うんざりする人もいるけれど……
カルシュ・オーケストラのミュージックビデオ製作と流行語となったウクライナ兵士の言葉をどう考えるか。これらを手の込んだ「戦意向上のプロパガンダ政策」とみるのか、それとも人々の気持ちを代弁する素晴らしい取り組みとみるのか。