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 良い悪いと評価するよりも先に思うのは、ロシアの侵攻を止める力を集めるために政府はこういうこともするだろうし、また人々の側も日々の戦争のストレスや怒りを、優勝という成果や皮肉な笑いで吹き飛ばしたくなるだろうということだ。

 また外国人である私としても、ミュージックビデオからウクライナの人たちの戦場に立つ気持ちを想像させられたし、流行語となった言葉からは大変な状況でもユーモアを忘れないウクライナ人の不屈の精神を知ることができた。

 もちろん違う考えを持つウクライナ人もいる。

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「ユーロビジョンでの優勝騒ぎにも切手発売にも、正直ちょっとうんざりしている」

 という声も聞いた。

「愛国主義は最初の1、2ヶ月はいい。でもそれ以上は続けられない。政府は作戦のために住民を犠牲にしている。もうドネツク・ルガンスクとクリミアは諦めるべきだよ」

 そんな考えの人も少数派ながらいる。

記念切手を買おうと集まる大勢の人たち。キーウにて5月24日に筆者が撮影

 ただそういう人であっても、不満の根本は、

「西側からの十分な支援がないから勝てない」

 ということだった。それゆえに戦争を続けなければならず、多くの犠牲者が出続けているというのだ。

戦いを終わらせるためには十分な支援が必要

 戦争に勝つためにはあらゆる手段がとられるだろう。そのための「しかけ」が人によってはあざとく見えることもある。でも、そういう人も含めて、多数派の認識は、そんなウクライナの行為と比べ物にならないほど、敵対するロシア軍のほうが酷いことをしているということだし、実際そうなのだろう。

ショッピングモールのある店の前には青と黄色のウクライナの国旗色の展示があった。5月24日に筆者が撮影

 ただし、戦争が長引けば長引くほどウクライナ側にも歪みは出てくる。戦うのはもう無理という人もさらに出てくるし、強制的なナショナリズムも現れるかもしれない。

 その限界は近づいているのかもしれないし、まだ先かもしれない。

 ひとつだけ言えるのは、周辺国の十分な支援がなければ、確実にその間に死者は増えていくだろうということだ。