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 さらに交代で会社に泊まる夜勤もあったという。

「月に5〜6回、会社に泊まる番があるのよ。基本は電話番なんだけど、亡くなったらすぐお迎えにいかなきゃいけない。迎えに行ってる間も、会社の電話が自分の携帯に転送されるようになってるから、ひっきりなしで対応していく。一晩に5~6件お迎えがあるしね。

 そうやって朝まで働くんだけど、まだ帰れない。明けて朝9時からは、そのまま普通に出勤しなくちゃいけないから。ヤバいよね。タイムカードなんか無かったし、労務関係はかなりブラックだと思う」

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「家族がほしい」孤独死をみつづけて…

 それだけ苛烈な勤務体制のせいか、職場の同僚たちはみな暗く、一緒に飲みに行ったりということもなかったという。

「なんか嫌なやつが多かったね。入ったばかりの時なんて、仕事のことは何もわからないじゃない。でも誰も教えてくれないんだよ。だから俺なんて、ずっと想像で仕事してた。見て覚えて、たぶんこういうことだろう、みたいな感じでやるしかない。年上も年下の先輩もいたけど、みんな他人に関心がない。

 しかも、嫌がらせしてくる。伝えるべきことを伝えなかったり、右から左で仕事を受けといて、あとは全部お前やっとけ、みたいな投げっぱなしも多かった。葬儀とはいえ、仕事はチームでやってるのに、みんなで協力してやろうっていう空気がない。自分のこと以外は一切やらない。生きてる人間に興味なくなってくるのかな」

 身を削るような激務と、薄い人間関係、そして体に染み込んでいく死体臭……。大澤さんは肉体的、精神的に追い詰められていった。

「生活のリズムがもうぐちゃぐちゃで、ストレス発散が食べることくらいしかない。いつもお腹空いてる状態で、どんどん体重が増えていった。逆に性欲とか、そっち系の興味は薄れたね。なんか生々しいのは苦手になる。とにかく食べ物。健康にはよくないけど、生きてるウチに好きなもの食べとこうって思ってた」

 達観したわけでないが、いつかくる自分の死についても考えるようになったという。

「まぁ、死んだらそれまでということは身にしみて理解した。だからこそ、生きてるうちにぜんぶ使うというか、財産残さず死ぬのがいい。火葬場で焼いてもらって、最低限の葬式をあげられる30万円くらい残せばいいかな。

 あと、孤独死をたくさん見てると、家族が欲しいなとは思う。死んだらすぐ発見されたい。初めて結婚したいと思ったよ。まぁ、いまさらだけどね」

 大澤さんは身体を壊し、葬儀屋を退職した。回復したら、孤独死と向き合う特殊清掃の仕事をやってみようと考えているという。