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「面接では“霊感ありますか?”と聞かれるけど…」元葬儀屋社員が語る、ご遺体よりも“耐えられなかったモノ”

2022/10/03
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遺体の損傷がよりひどい「自死」

 さらに、遺体の損傷が激しくなりがちなのが「自殺」だ。

「電車に飛び込んだご遺体を迎えに行ったことがある。ご遺体はグレーのシートにくるまれてるんだけど、持ち上げるとそのなかで何かが動くというか、どこかが取れちゃってるのがわかる。血とかもまだ出てるしね。

 それをシートごとお棺に入れて、中にドライアイスを入れて蓋しちゃう。自殺というのは家族も事情を知ってるから、誰もお棺を開けないし、見ないから、そのまま火葬場で焼いちゃう。そういうのは、もう現場でどんどん慣れていくしかない。

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 よく『どんな偉い人も、死んだらただの骨』みたいなことを言うけど、それが実感できる。死んだらただの骨というか、モノだよね。だから、ご遺体に対してもモノとしか思えなくなるし、感情移入もできない。最初の頃はやっぱり(感情移入)しちゃうよ。まともな人間だったら誰でも。でも、どこかでその感覚が無くなっていくんだよね」

写真はイメージ ©iStock.com

「深夜残業あたりまえ、休みなし」で給与は月30万円

 心身ともに過酷な仕事といえるが、待遇面はそこまで手厚くなかったようだ。

「最初の給料は額面で30万円くらい。この年齢で初心者だから、そんなものかなって思ったね。それに加えて歩合もあるんだけど、これは残業とかじゃなくて、お葬儀の見積もり担当になると、その規模によって歩合がつく。だからその立場までいけば待遇も良くなるんだけど、最初は使い走りが多くて、なかなか難しい。

 俺が見積もりを始めたのは入って1年後くらいからだったけど、それでも大きな葬儀とかおいしい仕事は先輩たちが持っていって、俺にはちょっと面倒臭いのとか、規模的に小さいものしか回ってこなかったね」

 大口の葬儀は社内の営業担当が押さえているので、“おいしい仕事”は飛び込みで入ってくる葬儀を運良く担当出来るかどうかにかかっている。

「たまたま電話を受けたら、大きな葬儀の相談だったりすることもある。ただ電話は毎日かかってくるんだよ。人は毎日死ぬから。死んでなくても『そろそろなんですけど、どうすればいいですか』という電話も多い。それが仕事になるかどうかはわからないけど」

 死は毎日訪れるので、葬儀も毎日行われる。そのすべてに対応していくのが葬儀屋だ。

「コアタイムは普通に9時から18時なんだけど、お通夜って18時から始まるから、根本的に勤務体系と合ってないんだよ。お通夜が1時間くらいで済んでも、その後にお食事始まっちゃうから、長いと21時くらいまで。あとはホールの人に任せて帰ってもいいんだけど、最後まで残るようにすると帰宅も遅くなる。

 会社的には週2回の休日があって、希望を出せば自由に選べる。でも、実際は休めない。関東圏の火葬場って友引の日が休みなのよ。なので、その前日は『ビキ前』と言ってお通夜がないから、夜に時間が空きそうなのはそこだけ。でもお通夜がなくてもお迎えはあるし、見積もりとか相談もあるからほとんど休めなかったね」