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克子が発した言葉に天野が仰天「こら、ええわ」
なんと3人は花札を手に、オイチョカブに打ち興じていたのだ。
天野は苦笑を浮かべ、
「別嬪はんがエラいことをやってるわ」
とひとりごちた。
彼女たちはいずれもそんな博奕とは似ても似つかぬ品格があり、「ええとこのお嬢さん」にしか見えなかった。
天野が魅了された克子は、とりわけその印象が強かった。清楚でたおやか、汚れを知らない乙女そのものであった。ときおり見せる笑顔も眩しかった。
盆中にどっぷり浸り、寄せ場も経験し、泥にまみれて生きてきた天野とは真逆の世界に住んでいるはずの彼女たちが、博奕(ばくち)打ちの真似ごとをしているのが、天野にはたまらなくおかしかった。その落差の大きさが、痛快このうえなかった。
天野が仰天したのは、その克子の口から、
「シッピン! 親の総どりやわ」
との声が聞こえてきたときだった。
「こら、ええわ」
天野は声をあげて笑った。
彼女も近くのテーブル席の天野に気づいたようで、悪戯を見つかった子供のように軽く舌を出した。
その仕草も品があり、可愛いかった。
最初はそれだけの触れあいであった。話もせずに終わったのだ。
翌々日の夕方、用事があって近くに来たものだから、天野は再び長居の同じ喫茶店「ロータス」に寄ってみた。
〈──えっ!?〉天野が内心で声をあげたのは、彼女がまた、そこにいたからだった。