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天野は克子に会うため、店に通うようになり……
〈嘘やろ? ……〉同じテーブルで同じメンバー、同じようにオイチョカブをやっているのだから、驚かずにはいられなかった。
近くの席に腰をおろした天野と目が合った彼女は、ニッコリ微笑んだ。
〈憶えとってくれたんやな、あんなカタギのお嬢はんが……〉
怖いもの知らずの天野がドギマギし、嬉しくなった。
〈せやけど、そのカタギさんのお嬢が、なんでオイチョカブなんや? ……〉
不思議でならなかった。
〈まあ、偶然やろ、たまたまや……〉
試しに天野は翌日も、夕方、「ロータス」を覗いてみた。
店の入口のドアを開けるや否や、
「おおっ!」
思わず声をあげてしまった。
またまた彼女が同じテーブルにいて、メンバーこそ違え、女同士でオイチョカブをやっていたのだ。その日は女店主も交じって4人。他に客はあまりいなかった。
〈毎日来てやってるんや! お嬢はん、よほど好きなんやなあ〉
天野は驚きを通りこして、いっそ愉快であった。
むろん金銭の遣りとりはなく、マッチ棒をコマに使って、彼女たちは純然たるゲームとして楽しんでいるのだった。
「ママさん、ここ、てっきり喫茶店とばかり思っとったんやが、盆中やったんやね」
天野は女店主にジョークを飛ばした。
そのときから、天野は彼女会いたさに連日、店に通うようになったのだ。おのずと彼女と話をするようになり、親しくなっていくのは自然の成りゆきだった。
彼女の名は克子といい、京都の出身、店の近くのアパートに姉夫婦と一緒に住み、最近まで松下電機に勤めるOLであったが、退職していまは自由の身、23歳で独身であることも知った。