1ページ目から読む
3/4ページ目

天野は克子に会うため、店に通うようになり……

〈嘘やろ? ……〉同じテーブルで同じメンバー、同じようにオイチョカブをやっているのだから、驚かずにはいられなかった。

 近くの席に腰をおろした天野と目が合った彼女は、ニッコリ微笑んだ。

〈憶えとってくれたんやな、あんなカタギのお嬢はんが……〉

ADVERTISEMENT

 怖いもの知らずの天野がドギマギし、嬉しくなった。

〈せやけど、そのカタギさんのお嬢が、なんでオイチョカブなんや? ……〉

 不思議でならなかった。

〈まあ、偶然やろ、たまたまや……〉

 試しに天野は翌日も、夕方、「ロータス」を覗いてみた。

 店の入口のドアを開けるや否や、

「おおっ!」

 思わず声をあげてしまった。

天野洋志穂氏(『爆弾と呼ばれた極道 ボンノ外伝 破天荒一代・天野洋志穂』より)

 またまた彼女が同じテーブルにいて、メンバーこそ違え、女同士でオイチョカブをやっていたのだ。その日は女店主も交じって4人。他に客はあまりいなかった。

〈毎日来てやってるんや! お嬢はん、よほど好きなんやなあ〉

 天野は驚きを通りこして、いっそ愉快であった。

 むろん金銭の遣りとりはなく、マッチ棒をコマに使って、彼女たちは純然たるゲームとして楽しんでいるのだった。

「ママさん、ここ、てっきり喫茶店とばかり思っとったんやが、盆中やったんやね」

 天野は女店主にジョークを飛ばした。

 そのときから、天野は彼女会いたさに連日、店に通うようになったのだ。おのずと彼女と話をするようになり、親しくなっていくのは自然の成りゆきだった。

 彼女の名は克子といい、京都の出身、店の近くのアパートに姉夫婦と一緒に住み、最近まで松下電機に勤めるOLであったが、退職していまは自由の身、23歳で独身であることも知った。