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 実家は京都の老舗の呉服屋、花札や将棋好きの家族で、克子もなぜか子供のころからオイチョカブに親しんできたという。

「そら、ええわ。博徒一家や」

 天野は克子と笑いあった。

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「東京で2000万円こしらえよ思っとんねん。一緒に行ってくれるか」

 克子にひと目惚れした天野は、彼女とつきあうようになって、ますます思いを募らせていく。

 克子のほうも、若い娘たちがタイガースだテンプターズと熱狂していた当節流行りのグループサウンズのような軟弱なタイプには嫌悪感しかなく、理想の彼氏像は、何より男らしさであった。

 その点、天野は克子の好きなタイプには違いなかったが、どう見てもカタギとは思えず、そこがネックになった。

 克子自身、ヤクザは嫌いだったし、もし相手が極道となれば、親が許してくれるはずもなかったからだ。

 そこを天野は、

「ワシはヤクザと違うで。ヤクザは嫌いやさかい、どこの組にも入っとらんし、これからかて、どこにも入る気あらへんがな」

 と言い張った。

天野洋志穂氏(『爆弾と呼ばれた極道 ボンノ外伝 破天荒一代・天野洋志穂』より)

 確かにその通りには違いなかったが、天野のやっていることは、誰が見ても、フリーのヤクザ、一本独鈷(いっぽんどっこ)の博奕打ちとしか思えなかった。

 が、克子は天野を信じ、次第に魅かれていくものを感じていた。何より天野に参ってしまったのは、男らしさとやさしさであった。

 1人の男のなかに、これほど度外れた男らしさとやさしさとが矛盾なく同居するタイプは、克子もいまだお目にかかったことがなかった。

 間もなくして2人は結ばれるのだが、一緒に暮らすようになって、幾らも経たないころ──昭和44年夏、天野は克子にこう宣言した。

「よしっ、東京へ行くぞ。ワシ、東京で2000万円こしらえよ思っとんねん。2000万。作ったらやな、また大阪へ戻って勝負したる! どや、一緒に行ってくれるか」

 克子に否やはなかった。もとより一緒になったときから、何があろうと、どこまでもついていくと覚悟を決めていたのだった。