「ヤツは大阪で、“爆弾”言われた男ですわ」
「何しとる男や? シャブ屋か?」
「いえ、シャブだけはせん男ですわ。恐喝はしまっけど……」
「ふん、イカレ根性しとるな。ええ、打ちっぷりや。けど、ワヤやな」
親分の科白に、若衆は内心で噴き出しそうになった。賭場での無茶ぶりにかけては天下一品、枚挙にいとまがないほどの逸話を持つ男の口から出るのだから、おかしかった。
〈たいしたもんやないか、ヨッちゃん、天下の山健のおっさんのお墨付きをもらったで……〉
山健の若衆は、旧友のほうを見遣ってニンマリした。
「親分、ヤツは大阪で、“爆弾”言われた男ですわ。どの博奕場も、あれが来る聞いただけで、『爆弾が来る!』言うて盆を閉めてしまいよる言うんですわ」
「…………」
山健が、どこかで聞いたような話やなという顔になったから、若衆はなおおかしいのを堪えた。
その今里の賭場は、チマチマと3万、5万円の金額を張る者などなく、札束が飛びかう大会、ケタ外れの打ち手ばかりのなかでも、天野の博奕は際立っていた。
勝負根性も凄まじく、引くということを知らず、命を投げだすような捨て身の博奕を打つのだ。何せ我流ではあっても、子供のころから盆に出入りしてフダに馴染み、中学生のころには手ホンビキを覚えてしまったというほど年季の入った男だった。
客の1人であった菅谷政雄は、若衆のサージこと生島久次のところに出入りしているという、その若者の打ちっぷりを興味深げに眺めていた。
〈面白いなあ。こんな博奕を打つモンもおんねんなあ。見事に場を栄えさしとるやないか。サージも果報者よ……〉
との感慨を抱きながら、ボンノはいつかその若者をすっかり気に入りだしていた。
そのうちにボンノは、自分より二回りも年下の若者──天野に対して、
〈どこにも所属してない一本いうんなら……〉
と考えるようになった。ぜひ身内にほしいな──と。