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 サージの盆で、天野の連戦連勝は続いていた。ボンノは目を瞠ってその様子を眺め、自分のことのように喜んだ。胸の内で喝采を送りながらも、声はかけなかった。

 が、あるときから勝負勘が狂いだしたのか、天野のツキは落ち、失速し始めた。1カ月後、天野は勝ち続けたころの勢いは見る影もなく、大敗し、スッカラカンとなった。

 そのとき、ボンノは初めて天野に声をかけたのだった。盆の奥の部屋に設けられた休憩室で、

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「ワシはボンノや。洋志穂いうたか。サージから聞いとるで」

「へえ、よう存じあげてま」

「礼を言うで。これだけサージの盆が栄えとるんも、おまはんのお陰や」

「滅相もおまへん」

 天野はボンノの心遣いが身に沁みてうれしかった。自分が勝ち続け得意の絶頂にあるときではなく、負けてシュンとなっているときに声をかけてくれる気配りに、感じ入ったのだ。

伝説のヤクザ、“ボンノ”こと菅谷政雄氏(『爆弾と呼ばれた極道 ボンノ外伝 破天荒一代・天野洋志穂』より)

「一本でやってるそうやが、どや、ワシと一緒にやっていかんか」

「ワシ、ヤクザ、嫌いでんねん」

「何でや? こないに博奕が好きやないかい」

「ろくな親分に当たってまへんさかい」

 これにはボンノも声をあげて笑った。まわりにボンノの身内がいなかったのは幸いだった。

「そら、洋志穂、ズバッと言い過ぎやで。そうか、ろくなもん、おらんかったんかい」

「最初に当たったんは、商売人なんかヤクザなんかわからん親分でしたんや。ワシ、男になろう思とんたんですが、見事に裏切られましてん」

 天野は最初の親分にあたる日建組組長肥田勝秀とのいきさつを、ボンノに縷々として話した。