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「ダメだな、まだ硬いな~」とニヤニヤ、たび重なる電話やメール、家にまで…球場の売り子バイトで体験した“理不尽なセクハラ”

『告発と呼ばれるものの周辺で』より#2

2022/10/07
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なぜかチェッカーの彼と2人で会うように…

 そしてこのアルバイトで、私は人生で初めてのセクハラとパワハラに遭った。といっても、当時の私がそれをセクハラと認識していたわけではない。

 バイトの友達で一番仲のよかった子が、しばらくしてチェッカーの1人と付き合い始めた。2人は仲がよかったけれど、よくけんかをした。私はそのカップルと3人で遊んだりすることがたびたびあったので、相談を受けるようになった。彼氏と彼女、両方から。

 ある時期、2人からひっきりなしに相談の電話とメールが入るようになった。当時のガラケーの着信履歴20件がすべて2人で埋まる。半日のうちに。メールの受信箱も2人からばかり。私はもともと、メールや電話が得意じゃなかった。得意じゃないというか苦手だった。

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 友達である彼女からはまだしも、チェッカーの彼からの連絡は、日に日に苦痛になっていった。

 けれど、私とそのチェッカーの彼は、なぜかときどき2人で会うようになっていた。私の家まで車で迎えに来て、食事に行こうと誘い出される。彼女との仲についての相談があるから……だったはずなのだが、なぜか2人で食事をしている。

 ファミレスで食事中、私は急にお腹が痛くなって「ちょっとお腹痛いのでトイレ行ってきます」と席を立ったことがある。帰ってくると、「たまちゃんの、そういうサバサバしたところ、俺好きなんだよな~」とニヤニヤしている。腹痛でトイレに立つとはっきり言うことは、彼にとって「サバサバ」という評価になるらしかった。

「俺好きなんだよな~」の「好き」とは、友達としての好きなのだろうと理解した。友達の彼氏から異性として好かれていると思えるほど、私は図々しくも聡くもなかった。甘かった。次は車の中で抱き寄せられた。「そういう意味じゃないから」などと言われた気がするが、私は固まっていた。単純に気持ち悪かった。体を離すと彼は、「ダメだな、まだ硬いな~」とニヤニヤした。

 私はなぜ彼からの「食事に行こう」という連れ出しを拒否することができなかったのか。単純に説明すれば、年上で、バイト先の上司だったから、有無を言わせぬプレッシャーがあったということになる。友達の彼氏と2人で会うことをおかしいと思わなかったのかと思う人もいるかもしれない。それは彼の連れ出し方が巧妙だったと言うしかない。

 でも、もっと正確なことを言えば、私は彼から舐められていた。別れ際に抱きついたとしても、それを自分の彼女に告げ口するような子ではないだろうと思われていた。

 彼の中で私は、派手なギャルが多い売り子の中で、ウブで世間知らずで、真面目に大学に通う無口な10代だった。私はアルバイト先でそういうキャラだったし、彼はさらに狭い枠に私を当てはめようとしていた。そして私はその枠に収められたまま、彼の前ではそこを抜け出せなかった。

 私が本当は、頑固で皮肉を好むような一面があることを、彼の前では出せなかった。出す気持ちにもなれなかった。たとえ出したとしても、「サバサバしている」とか「男慣れしていない」とか、彼が想定する枠に収められたのだと思う。