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「ダメだな、まだ硬いな~」とニヤニヤ、たび重なる電話やメール、家にまで…球場の売り子バイトで体験した“理不尽なセクハラ”

『告発と呼ばれるものの周辺で』より#2

2022/10/07
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 セクハラを含む性暴力の被害者は「あなたにも隙があったのでしょう」と言われることがある。典型的なセカンドレイプだ。この言葉についてはさまざまなことを思うのだが、ここで紹介した私の経験から思うことは、全方位に対して隙のない人間なんているのだろうかということだ。

 人と人とには相性がある。「この人の前だと自分を出しづらい」「この人の言うことは断りづらい」という相手は誰にでもいるだろう。逆に言えば、「この子には言うことを聞かせやすい」という場合がある。

 人を支配しようとする人は、相手を選んでいる。言うことを聞かせやすい相手を選んでいる。言うことを聞かせやすい相手は人によって違う。私も、誰からも舐められるような人間ではないのだが、彼には舐められていた。

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 ここで言いたいのはつまり、誰にだって誰かにとって「隙のある、支配しやすい相手」になり得ることはあるということだ。バイト先の上下関係、年齢、性別、その他の人間関係、すべての環境やタイミングが彼にとって都合がよかった。彼が免許と車を持っていて私はそうではないこと、私より偏差値の高い大学に彼が通っていること、私が他のチェッカーとは親しくないこと、細かい要因を上げれば限りない。

彼からの連絡をシャットダウンした結果…

 大学の友人と飲み会をしているとき、彼から何度も電話がかかってきた。何度目か出たのだが、その場が飲み会だとわかると彼は不機嫌そうにすぐに電話を切り、しばらくしてメールが来た。

「俺はたまちゃんのことが好きだから、たまちゃんが男もいる飲み会にいるのがイヤなんだよね」

 私は彼と付き合っていない。彼は私の友達と付き合っている。それなのに平然と、こういうことを言い放った。本当に卑怯なのは、私が本気で嫌がったら、いつでも「異性として好きだったわけじゃない」と周囲に言い訳できるぐらいの距離の取り方だったことだ。別れ際に抱きしめられたとか、私の行動を制限するようなメールをしたことは、私しか知らない(スクショを拡散する文化は当時まだない)。

 これは推測だけど、彼は私以外にも同じように接触していた女の子がいたのだと思う。周囲に相談できず、悪い噂を流すような小技を使えない子を狙って。

 たび重なる電話やメール、家にまで来られること、身体的な接触。イラついた私は、彼からの連絡をシャットダウンするようになった。

 それから何が起こっただろう。とても単純でわかりやすい。

 私は、それまで自分の持ち場だった売り場から離れることになった。その頃、バイトを始めて3年目(つまり3シーズン目)で、バックネット裏を含む一塁側の内野席が私の担当だった。少ないながらも「顧客」もいた。そこから突然、4階席と呼ばれる、グラウンドから離れた場所に移動になった。

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 4階席は内野席よりも階段の段差が急で、背の低い売り子は目立ちづらいと言われていた。「たまちゃんは背が低いから内野席」だったはずなのに。理由は明確だ。4階席は、彼以外のチェッカーが管理している。ミーティングを行うのも他のチェッカー。もう私は彼にとってお気に入りの売り子ではないから、どこへやってもいいのだった。