『人間の証明』『悪魔の飽食』など数々のヒット作で知られる作家が、80代に入り老人性うつ病に。認知症も併発し、作家生命の危機に陥りながらも、前を向いて生きる心境を率直に綴った新書が売れている。
「編集者は作家の戦友です。つらい時期でもご自宅に通い、とにかく打ち合わせをする。その繰り返しの中で、本書にも収録した、森村先生が主治医に病状を説明する手紙を拝読する機会がありました。それが私にはエッセイのように思えたんです。仕事の原稿を書くのは難しくなっておられても、先生はやはり作家なのだと。だから今の葛藤や悩みを率直に書いていただく本を作りたいと思ったんです」(担当編集者の永井草二さん)
読者に夢を与える作家は、自分の弱さを見せるべきではない。著者は長年、そう考えて生きてきた。だからこそ、病で言葉を忘れることを恐れ、思いついた単語を片っ端から紙に書きつけては家中に貼り付けるといった老いと向き合う文章が、なおさら胸を打つ。
読者層は著者と同世代の当事者から、その少し下の要介護予備軍、そして介護する側の40~50代まで幅広く、誰もが熱い共感を寄せている。まさにベストセラー作家の面目躍如だ。
「時代に合った表現の切り口さえ見つかれば、作家に限界はない。それを先生にあらためて教えていただいた気持ちです」(永井さん)