家森幸男氏による月刊「文藝春秋」の人気連載「世界最高の長寿食」第1回を一部転載します(2022年4月号より)。

「健康寿命」は意外に短い

 私はこれまで、約40年にわたって世界25か国61の長寿・短命地域を訪れ、その土地の人が食べているものを調べることで、食と健康・長寿の関係を研究してきました。

 都市部から世界の秘境と言われるような地域まで、その土地の方が実際に食べたものをまる1日の尿から調べ、健診をして健康状態を知ることで、長寿地域、短命地域の人が「何をどのように食べているのか、または食べていないのか」を客観的に調査し、科学的に分析を続けてきました。

 その結果「健康寿命は食べ物によって延ばせる」ということや、「世界最高の長寿食とはどういうものなのか」がようやく明らかになってきました。

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家森氏はアフリカのマサイ族の健診も行った

 私自身、今年で85歳になりますが、研究の結果明らかになった「世界最高の長寿食」を日々実践しているためか、元気に現役で研究を続けることができています。

 コロナ禍前までは、自宅のある京都から西宮の武庫川女子大学まで毎日電車で出勤していました。講演や執筆活動も多くこなしています。

 コロナで海外の現地調査には行けていませんが、現在もポーランドで更年期障害予防の研究を行ったり、京大の長浜コホート研究に協力し、栄養による認知症予防の研究などに取り組んでいます。

 私と同じような食生活をしている妻も80歳ですが、今も毎日開業医として働いており、健康診断でもどこも悪いところはありません。

「世界最高の長寿食」を実践すれば誰でも確実に、健康に長生きできる可能性があると私は確信しています。

 現在、日本人の平均寿命は、男性81歳、女性87歳と、男女平均で世界一を誇っています。しかし、日常生活が制限されることなく元気に過ごせる「健康寿命」は、男性73歳、女性75歳と、意外に短いのが実情です。

 平均寿命から健康寿命を引いた男性約8年、女性約12年は、生きてはいても、寝たきりや認知症などになり、医療のお世話になっている方が多いということです。

 何が日本人の健康寿命を短くしているのでしょうか?

 その最大の原因は脳卒中です。

 脳卒中は脳梗塞や脳出血、クモ膜下出血など脳の血管に起こる障害の総称で日本人の死因としては第4位です。しかし、死に至らなくても、後遺症が残り、一生、寝たきりになることも多いのです。

 また、認知症も健康寿命を妨げる大きな原因ですが、脳卒中は認知症全体の2割を占める脳血管性認知症の原因にもなります。

 他の寝たきりの原因としては、女性に多い骨粗しょう症も要注意です。転んで骨折したのを機に寝たきりになる方も多いからです。

 せっかく長生きできるなら、最後まで健康で元気に生活したいのは、すべての人の願いでしょう。

 健康寿命を阻害する脳卒中や認知症、骨粗しょう症などと、食生活との関係が分かれば、誰でも自分で健康寿命を延ばすことができるようになるのです。