ビールジョッキのような採尿器を2年かけて開発
そこで2年間かけて開発したのが、ビールジョッキのような特別な採尿器です。中に排尿し、ボタンを押すとワンタッチで毎回の排尿量の1/40の量だけがたまり、残りを捨てられます。
この採尿器のおかげでシルクロードの遊牧民からアフリカのマサイ族まで、様々なライフスタイルの人たちが1日に摂った栄養素を正確に分析できるようになったのです。
30年以上かけて、世界各地をめぐり、48歳~54歳の男女各約100人を地域ごとに選び、血圧測定や採血、尿の採取をしてきました。
調査に行く先は設備の整っていない村や集落がほとんどです。馬での移動やテント生活は当たり前、現地の食事に慣れずに体調を壊すことも日常茶飯事でした。
アフリカのマサイ族の健診では、槍を持ったマサイ族が見守る中、緊張しながら血圧を測定しました。
インドの貧困層が住む地区では、毎日屋台の天ぷらを食べ、お腹の不調を我慢して健診を続けた結果、日本帰国とともに腸閉塞と多臓器不全が判明、即入院となりました。
また、血や尿を神聖視するアボリジニの方々とは交渉が難航し、ご協力いただくまでに20年の年月がかかりました。
こうして、様々な苦労の末に世界の長寿地域・短命地域に住む約1万4000人の尿や血液のデータが集まりました。
そのデータを細かく分析することによって、健康長寿と食の科学的な関係が、ようやくはっきりとわかってきたのです。
この連載では、健康寿命を楽しむ賢い食べ方を明らかにしていきますが、ここで簡単に、長寿・短命に大きな影響を与えると分かった4つの食品についてお話ししておきたいと思います。
チベット族は短命で知られ、突然死も多い
まず第一に「塩」です。世界中のどの地域でも塩を多く摂る地域は短命で、少ない地域は長寿の傾向が見られました。
たとえば、中国のチベット自治区に住むチベット族は短命で知られ、突然死も多いのですが、彼らの尿から、1日平均16グラムもの食塩を摂っていることが分かりました。主な原因は日常的に飲んでいる塩茶やバター茶です。
塩の摂りすぎは脳卒中の死亡率を高めるだけでなく、心臓病、胃がん、骨粗しょう症の原因にもなります。特にバター茶のように脂肪を塩と一緒に摂ると、脂肪の吸収も高める作用があり、動脈硬化や心筋梗塞の原因にもなり、さらに寿命を縮めることになります。
塩を多く摂取する地域でも塩の排出を進めるカリウムを多く含む野菜や果物、カルシウムやマグネシウムを含む食物を十分に摂っていると、塩の害を抑えられるのですが、短命地域ではこれらの栄養素は十分には摂られていませんでした。
◆
家森幸男さんによる「世界最高の長寿食」第1回全文は文藝春秋2022年4月号、および「文藝春秋 電子版」に掲載しています。
五大陸で科学的に調査
【文藝春秋 目次】<絶筆>石原慎太郎「死への道程」/<芥川賞>「太陽の季節」全文掲載/驕れる中国とつきあう法/「品格なき大国」藤原正彦
2022年4月号
2022年3月10日 発売
特別価格1100円(税込)