物静かに武道館を眺めていた70代の男性は「安倍さんは長くやったから、外交でも海外の首脳たちが覚えてくれた。国葬は強いて言えば反対。特に安倍さんは好きではないけど、国葬が行われるというのは時代の1ページだよね。それを見にきました。あとは歴史が判断するでしょう」という。
わざわざ国葬の準備だけを見に武道館へ足を運ぶのだから安倍元首相には批判的ではなく、他の人に話を聞いたり様子を見る限り、国を挙げての一大イベントだから見にきたという感触は強い。国葬の前日に武道館へきたのは、国葬に興味を持つ人達にゆっくりと話をきけるチャンスがあると思ったからだ。国葬当日には交通規制も敷かれ、献花客も多くなるであろうことから、かなりの人出が予想される。
一つのデモの出発地点へ
9月27日の安倍元首相の国葬当日の朝、午前10時。千鳥ヶ淵緑道の入り口では、献花に訪れる人の長い列ができていた。朝8時半までに来ていた人には整理券が配られており、整理券を持っている人は優先的に献花台へ続く道へと入場していくが、それでもひっきりなしにくる客で並ぶ人の列はどんどん伸びてゆく。献花するまでに長い時間を待つ覚悟が必要になっていた。
靖国通りの通行規制のかかっていない歩道を通り、九段下交差点へと向かう。九段下交差点からの靖国通りは完全に封鎖され、車の通行はできない状態に。付近には警察官が隊列を組み、常に目を光らせ何かあれば駆けつけられるようにしていた。今日は国葬に対するいくつかのデモが予定されており、九段下交差点を通過するようになっていた。
そのうちの一つのデモの出発地点に足を運ぶ。出発地点の小さな公園では年配の人々が国葬反対とプリントされたのぼりを組み立てたり、お弁当を食べていたりしていたが、周りは警官に取り囲まれており、離れてみると物々しい雰囲気でもあった。
デモの出発時間を待っていると若者の団体が合流し、ゲバ文字の入ったヘルメットを着用しはじめた。デモ行進に向けて演説と「国葬粉砕!」とシュプレヒコールをあげる彼らは、以前に筆者が取材した東京オリンピック開会式の会場近くでデモを行ったのと同じ団体だった。