高度医療で知られる東京女子医科大学病院(東京・新宿区)で、臓器移植をめぐる経営陣の発言が大きな波紋を呼んでいる。
集中治療科の医師が一斉退職してICU(集中治療室)が崩壊するなど、危機的状況の打開策について、7人の教授らが経営陣に質問書を送付した。これを受けて急遽開かれた説明会で、板橋道朗病院長が次のように述べたのである。
「心臓移植、肝臓移植は、今後の医療提供を再考する時期」──。
これは経営優先の判断なのか。動揺が広がる患者家族と臓器移植をめぐる現実を取材した。
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ハイレベルの心臓移植が可能な女子医大
今年7月、外傷性くも膜下出血で長崎大学病院に入院していた、6歳未満の女児が脳死と判定された。臓器提供に家族が承諾したことから、女児の心臓は遠く離れた東京女子医大病院に運ばれる。そして、心臓血管外科の移植チームによって10歳未満の男児に移植され、命が引き継がれた。
翌月には、岡山の津山中央病院で脳死と判定された男性(50歳代)の心臓が、再び東京女子医大病院で40歳代の女性に移植されている。
末期の心不全患者にとって、命を繋ぐ最後の選択肢が心臓移植だ。難易度が高く、外科医を中心に経験と実績を積んだ専門スタッフが揃う高度な病院にしか実施が許されていない。現在、国内で心臓移植が可能な病院は、女子医大を含めて11施設のみだ。
1997年に臓器移植法が施行されてから、女子医大は国内トップレベルの移植施設として、多くの患者の命を救ってきた。最新の統計(2020年)でも、腎臓移植の年間手術件数149例は国内1位だ。
心臓と肝臓の移植は病院にとって赤字だが命を救う特別な医療
また、脳死、および心停止ドナーの移植施設として、心臓、肝臓、膵臓、腎臓の4つで指定を受けている。これだけ多くの臓器で指定を受けている大学病院は数少ない。
肝臓移植の第一人者である古川博之医師(旭川医科大学・副学長)は、臓器移植の現実をこう語る。
「脳死ドナーから摘出された心臓は4時間以内、肝臓は12時間以内に血流を再開させなければなりません。東京での心臓移植は、女子医大と東京大学のみです(*国立成育医療研究センターは登録時11歳未満のみ移植可能)。
手術は、脳死ドナーから摘出するチームと、レシピエント(患者)に移植するチームが必要で、医師は10人前後、看護師やコーディネーターを含めると、20人以上のスタッフが関わります。移植医療は、病院にとって持ち出し(赤字)になりますが、患者の命を救う特別な医療です」