文春オンライン

2022/10/01

 病院にとって、移植医療はハイレベルな医療機関としての証でもあり、若手医師たちを集める魅力でもある。だが、女子医大は移植医療から撤退する可能性が出ているのだ。

 9月22日午後3時、女子医大のキャンパスにある弥生記念講堂(約800人収容)には、立ち見が出るほどの医師や看護師などが集まった。混迷を深める経営陣の対応について、7人の教授と講師が質問書を提出したが、400人を超える職員が賛同の署名をしたという。(#8を読む)

弥生記念講堂

"症例数が少なくコストも高い心臓と肝臓の移植からは撤退を検討"

 この質問書を受けて、経営陣が回答することになったのだが、板橋病院長の発言に職員たちは耳を疑った。

「これまでの症例数や治療成績を客観的に評価して、今後、女子医大として施行すべきか、否かを検討する時期にきた。臓器移植もその対象。

『心臓移植』、『肝臓移植』は、症例数がさほど多くない病態・疾患であるものの、極めて高度な治療で、長期間の集中治療や多くの人的資源を必要とする。本学の位置付け、そして役割を検証して、今後の医療提供を再考する時期」

 要約すると"症例数が少なくコストも高い心臓と肝臓の移植からは撤退を検討"。

 移植医療は不採算部門だが、善意の上に成り立つ医療であり、社会貢献としての責務でもある。また、心臓や肝臓の移植を受けるには、病院で事前に登録することが必要条件だ。現在、多くの患者が女子医大に登録しているが、その存在を経営陣は認識しているのだろうか。

板橋道朗病院長と岩本絹子理事長(女子医大HP、Sincere No.9より)

「命を諦めなければいけない患者が出るのは確実」

 かつて女子医大で心臓移植を受けるため、入院生活を送っていた患者の家族に、板橋病院長の発言を伝えると、驚きと憤りを隠さなかった。

「いま、女子医大が心臓移植を止めてしまったら、命を諦めなければいけない患者が出るのは確実です。それを思うと本当に腹が立ちます。心臓移植チームが一生懸命に努力して命を救っている現場を、経営の方々は見るべきではないでしょうか」

 心臓移植が必要な拡張型心筋症の患者の場合、補助人工心臓を使いながら、移植ができるまで長い期間を待つ。また、子供の場合は入院が必要となるが、子供用の補助人工心臓は全国で30数台しか稼働していないため、常に埋まっている状態だ。女子医大が心臓移植から撤退することは、心臓移植を待つ患者を見殺しにするに等しい、という声もある。

心臓血管外科の手術場面

 それだけではない。

 臓器移植を受けた患者は、免疫抑制剤の服用が一生続く。新型コロナウイルスなどの感染症にはハイリスクであり、定期的なフォローアップが必要となる。これまで女子医大で移植手術を受けた多くの患者は、移植チームが消滅すると行き場を失うのだ。