あなたは、「怪談師」という職業をご存知だろうか。常識では考えられない、不気味で不思議な話の語り手——。それが怪談師だ。

 “怪談界の巨匠”稲川淳二さんから「新しい時代がきている」と評価され、注目を集めている若手怪談師の深津さくらさん(30)。「自分自身は“第六感”が鋭くない」という彼女は、取材を通じて怪談を集めている。

 そんな深津さんに、最近集めたばかりの「不思議な話」や、彼女が思う怪談の魅力について語ってもらった。(全2回の2回目/1回目から続く)

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怪談師・深津さくらさん ©釜谷洋史/文藝春秋

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となりの家が事故物件になった美容師の話

――たまたま出会った人にも「不思議な体験」を聞いてしまうとおっしゃっていましたが、最近聞いた話はありますか。

深津さくらさん(以下、深津) 私は普段、関西に住んでいるんですけど、友人の結婚式に参加するために沼津(静岡県)の美容室を予約したんです。

 そこで担当してくれた男性の美容師さんに「私、怪談が大好きなんです。お兄さんが最近体験した不思議なことはありますか?」と聞いたところ……お兄さんが目をカッと開いて、「実は昨日、僕のとなりの家が事故物件になったんです」と話してくれました。

 

――となりの家が事故物件に?

深津 そう。となりの家から、すごい臭いが漂ってくるなと思っていたら、マンションに警察が続々と集まってきて。事情を聞いてみたところ、なんでも練炭自殺を図ったそうで……。

 実は事件が起こる少し前から、お兄さんはとなりの部屋に違和感を覚えていたそうなんです。一人暮らしのはずなのに、赤ちゃんの声とか、変な声がよく聞こえてきたって。

「結局あの声がなんだったのか僕にはわからない。だから誰にも言わないつもりだったけど、深津さんに『不思議な体験をしたことはありますか』と聞かれて、つい話しちゃいました」とおっしゃっていました。