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 実は大学を卒業したあと、しばらく一般企業のOLをしていたんです。でも、すごく激務で心も体もすり減ってしまって……。その時も、私を癒やしてくれたのは怪談だったんですよね。仕事が休みの日に怪談会に行くと、生き返るというか、本来の自分に戻れる気がしていました。日常に疲れ切っていたからこそ、常識外の世界に連れて行ってくれる怪談の世界に惹かれたのかもしれません。

怪談を楽しむことは、お互いの言葉に耳を傾け合うこと

――怪談に出合ってから、自分とも他人とも気張らずに向き合えるようになったのですね。

深津 怪談は、人の話に耳を傾けるところからスタートします。その人がどう思ったのか、何を感じたのか、そしてどう行動したのか。自分とは全く異なる感性に触れて、それを受け入れる場所が、私にとっては“怪談会”でした。

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「自分と違うからおかしい」「普通じゃないから信じない」じゃなく、「こんな体験をしたのか!」「こんな解釈があるのか!」と面白がってくれる人たちが大勢いる。怪談を楽しむことはつまり、お互いの言葉に耳を傾け合うこと。怪談は、コミュニケーションの手段のひとつなんです。

 

 誰にでも、人と異なる一面はきっとありますよね。でも、普段の生活の中でそれを見せ合う場面ってほとんどないと思うんです。それが“怪談”というツールを通すと、違いを見せ合うハードルが低くなる。誰かの体験したお話を聞いている時は、その人の素の部分……普段は胸の奥にしまっている、大切なものを覗かせてもらっているような気持ちになります。

 話す人も聞く人も、お互いに受け止める姿勢があるから、無理に着飾る必要がない。怪談を話しているうちに、自然と打ち解けられることが多いんです。

美術作品と怪談を結びつける展示会をやってみたい

――最近では書籍も出したりと、怪談師としての活動の幅も広がっているように見受けられます。今後、新たにやってみたいことはありますか?

深津 いつか、美術作品と怪談を結びつけるような展示会をしたいなと思っています。

――美術作品と怪談を結びつける展示会?

深津 怪談の情景を絵や空間で表現し、“聞く”だけでなく、五感を使って不思議な体験ができるような仕組みを作ってみたいですね。これまで聞かせていただいたお話は無数にあるので、話したり書いたりするだけでなく、もっといろんな表現で怪談を楽しめるようにしたいんです。私は怪談が大好きな、「怪談と結婚した女」ですから。

撮影=釜谷洋史/文藝春秋

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