――きっかけはやっぱりコロナ禍ですか。
滝沢 「家にいてやることもないから断捨離だ」って、大量に家庭ゴミが出たじゃないですか。あれを見て、「もしこのゴミが回収されなかったらどうなるんだろう」って、清掃崩壊の恐ろしさを感じた人が多かったんじゃないですかね。
住民の方から「ありがとうございます」と御礼を言われるようになりましたし、とにかく目が合うようになりましたよね。
――物理的な意味で住民と目が合う、という意味ですか。
滝沢 そうです。たぶんそれまでゴミ清掃って、開けちゃいけない蓋だったんだろうと思って。「汚い、臭いものを触って処理している人たちにかわいそうな目を向けちゃいけない→かといってどう接していいかもわからない→だったら見なかったことにしよう」という思考回路が自分にもあったことに、当事者になって気が付きました。
実際、清掃員の先輩から「俺らは人目についちゃいけねえ仕事だからよ」と言われたこともあります。
「清掃員がラーメン屋に並んでいた」とクレームが…
――しかし、滝沢さんは「ゴミ清掃員」としてメディアにガンガン出てます。
滝沢 僕が10年この仕事をやってきた中で、サボったりズルしたりしている人は見たことがなくて。本当にみんな驚くくらい、真面目。
なのに、「俺らの税金で缶コーヒー飲みやがって」「清掃員がラーメン屋に並んでいた」なんてむちゃくちゃなクレームが来たりする。そりゃあ飯も食べますよ、我々だって。休憩時間なら缶コーヒー飲んだっていいじゃないですか。税金を払った後の自分のお金なんだから。
ただわかったのは、クレームをつけてくる人の大半が僕らのことを知らない人なんですよ。
――ふだん挨拶を交わさないような人がクレーマーになると。
滝沢 「ズルい」って感情やクレームって、人の顔が見えないから出てくるんじゃないですかね。相手の行動も見えてないから、ストレス発散的に暴力的な言葉を投げつけていいと思うのかもしれない。いい加減なゴミ出しをするのも同じことです。
周りの芸人はみんな、「滝沢がいつ回収するかもわからないから」と、僕がゴミ清掃員になってから分別をちゃんとするようになったと言っています。
そういうとき、挨拶が絶大な効果を発揮するんですよ。毎朝「おはよう」って言い合う仲なら、クレームはこないし、分別もちゃんとしてくれる。そんな下心で、僕はいつも挨拶するようにしてるんです。
写真=平松市聖/文藝春秋
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