痛い小説である。若者の使う“大きく外していて”イタイ、という痛さではない。本当に殴ったり蹴りあったりして血が流れるという痛さが、全編にあふれ返っているのだ。こんな大学が本当にあるのかと驚きもし、笑えてもくる。

 国士舘大学といえば、最近でこそ普通の大学に近くなり、多数のスポーツ選手を輩出することで知られるようになっているが、この小説に描かれている一九八〇年代初頭には、右翼、暴力団、警察などに人材を供給する民族派の大学の雄として知られていた。

 その八〇年代初頭に、とりわけ荒れた体育学部に入学した主人公の青春記である。教室では全国から集まった猛者(もさ)たちが「誰がいちばん強いか」をかけて拳でやりあっている。部活でもヒエラルキーを求めて日々バトルが繰り広げられている。

ADVERTISEMENT

 主人公の孝介はシティボーイをめざして上京した田舎者だから、入学早々居場所をなくしてうろたえることになる。だが孝介は生きていくためにピエロ役を演じて人気者になるという道を選び、かろうじて学校になじむのだ。

 ピエロ役を演じるといっても、軟弱者の役まわりではない。それが孝介の戦いなのであり、意外にもなかなかカッコいい男なのである。猛者たちが孝介に接近してきて、なんとなくリーダーのようにもなるのだ。

 著者はこの小説と同じ頃に国士舘大学生だったのであり、ここには実際の体験や、自分の思い出がこめられているであろう。その著者の思い入れが、主人公を魅力的にしているのだ。

 孝介は女にフラれもするが、基本的にはモテ系である。珍しいタイプのヒーローなのだ。

 バトル続きの大学生活の中で、登場人物たちは確実に成長していく。そこがまことに青春小説である。

 あきれた大学だと思いながらも、ギラギラした青春小説はこんなところにしかないのかも、と思わせてくれる暑い暑い物語である。

くりやまけいすけ/1962年岐阜県生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などを手がけながら、2015年、『居酒屋ふじ』で小説家デビュー。本作は2作目。

しみずよしのり/小説家。1947年愛知県生まれ。愛知教育大卒業。著書は『蕎麦ときしめん』など多数。近作に『朦朧戦記』がある。

国士舘物語

栗山 圭介(著)

講談社
2016年3月16日 発売

購入する