コロナ禍で「11万の結婚」が失われた
若年層におけるマッチングアプリの浸透には、見過ごせない社会的背景がある。東京大学准教授の仲田泰祐氏と東京財団の千葉安佐子氏が2022年2月に発表した研究によれば、新型コロナウィルスの流行とそれにともなう対策は多くの出会いを奪い、この2年間で婚姻数はおよそ11万件も減少したという。2021年には、婚姻数・出生数がともに戦後最少を記録している。これらのデータは男性の4人に1人、女性の6人に1人が結婚を選ばない時代を象徴している。少子高齢化は新型コロナによって、さらに加速したのだ。
「過去10年間、日本の婚姻数は一貫して下降してきました。2010年に70万件あった婚姻は今や50万件前後にまで減ったのです。特筆すべきは2020年、2021年の2年間で失われた婚姻が11万件に及ぶことでしょう。私たちは“コロナ以前”である2010年から2019年までの10年間のトレンドを解析し、“感染症流行がなかった場合”の推計値を算出しました。その推計値と現実の婚姻数の差が、11万もの“失われた結婚”というわけです」(千葉氏)
コロナ禍によって婚姻が失われたことはその他のデータからも明らかだ。例えば、「ゼクシィ結婚トレンド調査2021首都圏」によれば以前から30歳以上は20代と比べて交際から婚姻までの期間が短いことが分かる。そしてコロナ禍に入るとまず30代、40代の婚姻数が下落し、続いて若年層の婚姻数が下落した。人流抑制による“出会いの減少”で、まず先に交際から結婚までの期間が短い30代以上の高齢層の婚姻数に影響が出たことがわかる。
千葉氏は今後、20代など若年層の婚姻数にもはっきりと影響が出るリスクを指摘した上で「この2年間に出会おうとする努力自体が失われてしまった場合、今後、さらにダウントレンドが鋭くなる可能性も考えられます」と警鐘を鳴らす。
国内最大手のマッチングアプリ「ペアーズ」の自社調査(2022年4月)によれば、デートや恋活を控える理由を尋ねたところ、「デートをするために混雑した場所に出かけると感染の不安があるから」が23%でトップになり、「自粛要請(緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など)が出ているから」が続く結果となった。
「我々の調査では、若い世代も結局は学校とか職場など日常生活の中で顔を合わせることによって交際がスタートする割合が非常に大きいのです。リクルートの行った調査では、24歳以下の世代では『職場・学校・趣味』での出会いをきっかけに結婚する割合がおよそ7割。大切なのは、やはり顔を突き合わせるリアルな交流なのです。が、これがコロナ禍で失われてしまいました。婚姻が失われれば、出生も減っていくことが予想されます。事実婚がそれほど根付いていない日本の社会では特に顕著でしょう。11万件の“失われた結婚”が今後、社会に与える影響については、数年をかけて見極める必要があります」(同前)