文春オンライン

2022/10/09

「愛憎だね」

 後年、筆者は確かテレビ局のパーティーか忘年会で猪木さんにお会いする機会を得た。その際、勇気を振り絞って『チャンピオン太』のことをお聞きしてみた。何しろ昔過ぎて、ろくな資料も残っていなかったためご本人に確かめるしかないと思ったのだ。

 すると、「そう、力道山が笑いながら、“お前、死神酋長で行け”って言うんだよ。でも俺はそれを断ったの。いきなり死神じゃ親に申し訳ないと思って」とのお答えが。やはり逸話は本当だった。

©文藝春秋

「力道山のことは愛憎だね。本当に厳しくしつけられたから。でも後で『アステカイザー』って番組に自分が出た時に、師匠の気持ちが少し分かった気がした。

 自分が出て、番組に協力することで弟子や新人たちの顔がテレビで売れると思ったし、あえて怪物みたいな役もやらせた。すべては団体のため本人のため。あの時、力道山も同じように考えたんじゃないかな? 師匠なりの弟子たちへの愛情だったんじゃないかと思ってね」

 なんと、力道山さんの猪木さんらへの弟子愛は、ドラマという思わぬ媒介を通じて受け継がれていたのだ。

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 “愛憎”と呼んだ師匠・力道山さんへの想い。それが弟子たちや団体、そして日本という国家、さらには世界への“愛”となって猪木さんは政治家を志し、そして病に伏してなお自らの闘魂を示し、世界中の人々を勇気づけようとしたのではないだろうか? 今はただ、神が与えてくれた先の猪木さんとの奇跡の一期一会に感謝しつつ、謹んでそのご冥福をお祈りします。

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