評論家のササキバラ・ゴウも、ラムの水着姿は一見煽情的だが、実際にマンガを読んでいるとほとんどいやらしさは感じられないとして、その理由に《高橋留美子という女性の作者が持っている視線と描写》を挙げている(『〈美少女〉の現代史』講談社現代新書、2004年)。
「やっぱり少年誌の中で女っていうのは…」
高橋の功績は多数あるが、少年誌に女性の視点を持ち込んだことはその一つだろう。そもそも、少女マンガ誌ではなく少年誌でデビューし、その後も少年マンガをメインに描き続けている女性作家という点で高橋はパイオニアである。彼女以降、『金田一少年の事件簿』のさとうふみや、『鋼の錬金術師』の荒川弘など、少年誌からヒット作を出す女性作家がたびたび現れるようになった。しかし、そのペンネームがことごとく男性のような名前であるところに、少年マンガの世界における女性作家の難しい立場が表れているようにも感じられる。
女性作家の立場については、高橋も『うる星やつら』連載中のインタビューで、《私も、チャンスをのがさないぞっていう気概があって、それなりに努力したと思います。とにかく信用を植えつけるというか、やるといったら必ずその日までにやること、たたかれたら、たたかれた分だけよくするっていうことだけはもう絶対。やっぱり少年誌の中で女っていうのはハードというか、いっぺん信用なくしたらもうダメなんですね》と語っていた(『週刊文春』1983年3月3日号)。それでも彼女は、少年誌で描き続けてこられた理由を訊かれるたび、とにかく少年マンガが好きで自分に合っているからだと答えてきた。
その高橋が『うる星やつら』のなかでもとくに好きなキャラクターは藤波竜之介だという。竜之介は女性だが、父親から男として育てられ、そのことに違和感を訴えては親子喧嘩を繰り返す一方、クラスの女子からはモテるという性を超越した存在だ。初登場は、週刊連載も3年目に入りちょうど行き詰っていたころで、《彼女が新しいエネルギーを持ってきてくれた。ジェンダーが曖昧で、それも描いていて楽しかった》とか(『ダ・ヴィンチ』2013年12月号)。今回のアニメにも竜之介が登場するのか、いまのところあきらかにされていないが、ある意味、時代を先取りしたキャラとあって、出てくるとすればどう描かれるのか気になるところである。