のちには原作を逸脱し、オリジナルのエピソードも登場するようになる。その嚆矢ともいえる1983年3月に放送された「さよならの季節」は、原作の一エピソード「あたるの引退」をベースにしながらも、主役に原作ではサブキャラにすぎなかったあたるのクラスメイト・メガネを据え、ストーリーも物語の世界観が揺らぐような展開を見せた。メガネ役の声優・千葉繁の怪演もあいまって強烈な印象を残すこのエピソードは、おそらく翌年公開された押井監督の劇場版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の布石にもなっていると思われる。
テレビアニメの『うる星やつら』は、押井が《なんか無茶したかったというか、斬新なことに挑戦したかった。若いヤツらが集まってきて、彼らの望むものをほとんど無条件でやらせてみた。ヒドイのはとことんヒドイけど、普通にやってたら絶対できないような、圧倒的なパワー感ある作品も生まれました》とのちに振り返っているように(『SPA!』1994年7月27日号)、原作と同様につくり手が好きにやることで成功を収めた。それは、当時のフジテレビの雰囲気にもマッチしていたともいえる。
フジテレビはこのころ、70年代より続く視聴率低迷から脱却するため大規模な改革の真っただ中にあった。そこではまさに「権限の委譲を推し進め、制作現場の自由度を高める」と謳われていた。そもそも『うる星やつら』が放送された水曜夜7時台後半には、長らく『スター千一夜』とクイズ番組と月~金の帯番組が陣取っていた。これらは番組編成の自由を奪っているとして、改革の格好の対象となり、1981年9月をもって打ち切られた。翌月、空いた枠に入った『うる星やつら』は、同じ月にレギュラー放送の始まった土曜夜のバラエティ『オレたちひょうきん族』などと並び、80年代のフジ快進撃ののろしを上げることになる。
高橋留美子の作品が、長く愛される理由とは?
それから40年以上が経った。改革に成功したフジテレビだが、その後、他局に追い上げられ、いまや昔日の面影はない。そこへ来て、同局が『うる星やつら』を復活させるのには、どんな意図があるのだろうか? もちろん、かつてとまったく同じというわけにはいかないだろう。あたるの女性に対する言動など、いまのコンプライアンスなどからすると問題となりそうな描写も少なくない。おそらく今回のリメイクでは、原作やアニメの旧作とくらべると表現を抑えた部分も出てくると予想される。だが、それで本質が揺らぐほど高橋留美子の原作はやわではないはずだ。
『うる星やつら』には、虎柄のビキニ姿のラムをはじめ、色っぽい女の子がよく出てきたので、エロティックな部分で人気を集めたと感じた人もいたようだ。しかし、前出の三宅克に言わせれば、そうした部分は高橋のサービスにすぎず、《彼女の本質は藤子不二雄、赤塚不二夫につながる、『サンデー』の核である》という。すなわち《読者の身のまわりの喜びや悲しみを楽しくおかしく描いている。高橋さんは男ってバカな生き物だけど、可愛いものだという愛情あふれる描きかたをしています。(中略)それが抜群の距離感になって作品の命を長くしている》というのだ(『本の窓』2000年3・4月号)。