森川 はい。これはソフトクリームではなくアイスの話になっちゃうんですが、ドバイのカフェが約10万円のアイスを売り出したことがありました。マダガスカルの高級バニラビーンズを用いたアイスにイラン産のサフラン、イタリア産の黒トリュフのスライスを使い、23カラットぶんの金箔をトッピングにまぶしています。さらに持ち帰りできる器とスプーンはベルサーチ製です。
――こち亀に出てくる金持ちのセンスだ!
森川 せっかくなので同じお店のほかのアイスも食べてみたら、アイスの味自体はそれ以外のフレーバーとあまり変わりませんでした(笑)。
――森川さんにとって理想のソフトクリームを教えてください。
森川 どのお店も魅力的ですが、あえて選ぶとすれば、北海道札幌市にある「BARNES(バーンズ)」のソフトクリームです。
その日の気温や湿度も踏まえて一番のコンディションになるよう調整するため、材料を毎朝仕込んでいるんですよ。カルピジャーニの使い方もばっちり。アクセスが不便な立地ではありますが、お客さんが絶えない名店です。
あとは長崎県長崎市の「ニューヨーク堂」です。
地元の玉子と牛乳だけを使った昔ながらのソフトクリームを焼きたてのカステラに乗せた「長崎カステラ生ソフト」は、わざわざ長崎まで行って食べたい逸品です。
「日本のソフトクリームは世界一」の理由は?
――森川さんは海外のソフトクリームもチェックした上で、「日本のソフトクリームは世界一」と提唱していますよね。どの点でそう感じるのでしょうか?
森川 日本は国土があまり広くなく、物流ネットワークが発達しているので、そもそも新鮮な牛乳が手に入りやすいんですよね。なおかつソフトクリームを取り扱う店舗が多く、競争原理が働いているため平均レベルが高い。
アメリカでもソフトクリームは売っていますが、チェーン店の既製品がほとんどで、牛乳からこだわったお店が競い合うような状況ではないんです。
――森川さんは「note」で街ごとのソフトクリームガイドを発表していますよね。各エリアにソフトクリームの名店があるというのは、たしかに恵まれた状況と言えそうです。
森川 日本は「観光とソフトクリームが結びついている」点も独特です。地元の食材や銘菓を使ったご当地ソフトが盛んで、観光地に行くと少し歩けばソフトクリーム屋さんに当たる。ご当地ラーメンと同じくらい、ご当地ソフトクリームというものがジャンルとして確立されています。
――なぜ観光とソフトクリームが結びついているんでしょう?
森川 ソフトクリームは10秒くらいで提供できるのと、原価率がそれほど高いわけではないので、お店にとってもありがたい食べ物なんですよね。そして、いろんな食材と組み合わせることができる自由さもある。地域活性化のためのアイテムとして非常に有効なんです。
――お話を伺って、自分はソフトクリームのことを何も知らなかったんだと痛感しました。
森川 ラーメンやカレー、ハンバーガーといった食べ物にはグルメガイドが存在するのに、ソフトクリームのグルメガイドはない。これだけ身近な食べ物なのに、ソフトクリームの魅力は世間に1割も伝わっていません。せっかく日本は恵まれた環境なのだから、これからもプロソフトクリーマーとしてソフトクリームの魅力をどんどん発信していくつもりです。
写真=深野未季/文藝春秋
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