手指以外のアルコール消毒は、感染対策としてはほぼ無意味
《抗ウイルスコート》
コロナ禍がリモートワークという働き方を根付かせた。人が密集しないことはなによりの感染対策であり、満員電車での出社などあり得ないこととされた時期があった。
電車やバスでクラスターが発生すれば、公共交通機関は忌避され、経営に大打撃を受けると考えたのだろう。京都市では、2020年8月から2億4400万円をかけて市営の地下鉄やバスの車内の壁などに「抗ウイルス・抗菌コーティング」を施した。他にも新京成バスや相鉄バスなどが車両に同様の処理をしている。
その効果はいかほどだったか。浜松医療センターの感染症管理特別顧問・浜松市感染症対策調整監の矢野邦夫医師が解説する。
「抗ウイルスコートについては、米国環境保護庁(EPA)がはっきりと効果はないと結論づけています。また、米国疾病管理予防センター(CDC)は、接触による感染は感染機会全体においてわずか1万分の1未満の確率であると述べています。つまり、飛沫感染や空気感染と比較して、握手や手すり、吊り革を触ることでコロナに罹るリスクは著しく低いということです。壁の抗ウイルスコートはいうまでもなく、テーブルやドアノブ、手すりなどの消毒も実はほとんど意味がない」
手指以外のアルコール消毒は、感染対策としてはほぼ無意味で、手指についても、1日1回、石鹸で手洗いをすれば十分だという。
ハンドドライヤーはむしろ感染症対策になる
《ハンドドライヤー》
すっかり影を潜めた“コロナ対策”の他にも、現在進行中の感染症対策の中には効果が疑問視されているものがある。
使い捨てのペーパータオルにとってかわられた洗面台のハンドドライヤーには、いまだ使用中止と大書された注意書きが貼ってある。手に付着したウイルスが風にあおられまき散らされるから、というもっともらしい理由で使用中止が続くが、実はこれも効果のほどは疑わしいという。
「ハンドドライヤーは、手を洗ったあとに利用するもので、水で洗った時点で、仮にウイルスがついていたとしてもかなり落ちているので問題ありません。逆に、手を水に濡れた状態で放置すると、さまざまな細菌やウイルスを吸い付けます。ハンカチで水気を拭ったとしても、そのハンカチをポケットやバッグに入れて1日に何度も使うのならむしろ不衛生。世界保健機関(WHO)は感染症対策として、手を洗ったらペーパータオルで拭くか、ハンドドライヤーで乾かすことを推奨しています」(前出・矢野氏)