「コロナ・ショックは人間をインターネットの中に、より正確にはSNSの作り出す人間同士の相互評価のゲームの中に閉じ込めたのだ。」

 評論家の宇野常寛氏は、新型コロナウイルスの世界的な流行が人類にもたらした影響をこのように表現する。その真意とは、いったい——。ここでは、宇野氏が2022年10月20日に刊行した著書『砂漠と異人たち』(朝日新聞出版)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/2回目に続く

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コロナ・ショックは人間をインターネットの中に閉じ込めた

 この文章が書かれ始めた2020年から現在(2022年秋)に至るまで、人類社会はコロナ・ショックの影響下にある。新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行(パンデミック)のもたらした混乱は、予想以上に長期化していると言わざるを得ないだろう。最初の1年は特にその市民生活への影響が大きく、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ムンバイ、リオデジャネイロ、シンガポール、そして東京──程度の差こそあれ、世界的に推奨される「新しい生活様式」のもと人々は目に見えない不安に窒息させられそうになりながら静かに暮らしていた。

 しかし「社会的距離(ソーシャルディスタンス)」を確保していたのはその物理的な身体のみで、人間の精神──社会的身体──はむしろ、これまで以上に密接なかたちで、それも常時接続されることになった。その常時接続の場となったのは、インターネットだった。レストランや劇場から締め出された人々は、その寂しさをスマートフォンの中で誰かとつながることで埋め合わせることを選んだ。

 こうして人々は、FacebookとTwitterのタイムラインにこれまで以上に張り付きはじめた。コロナ・ショックは人間をインターネットの中に、より正確にはSNSの作り出す人間同士の相互評価のゲームの中に閉じ込めたのだ。そして「STAY HOME」の号令のもと自宅に閉じ込められた人々のエネルギーは、ヒステリックなかたちでサイバースペースに解放されることになった。

写真はイメージです ©iStock.com

 このコロナ・ショックで僕たちが学んだこと、それは地球全体が情報ネットワークに覆われたとき、世界的な危機は危機そのものよりも危機についてのコミュニケーションとして──具体的にはインターネット上の情報の独り歩きのもたらす社会の混乱として──出現するということだ。

 新型コロナウイルスの流行の与える直接的な影響、つまり感染によって人々の健康と生命が奪われることと同等か、あるいはそれ以上に、流行に怯える人々の政治的、経済的な混乱による間接的な影響がより深刻な被害を与える。WHO(世界保健機関)は、この情報の混乱をInformation(情報)と、Epidemic(疫病の流行)とを合わせて「Infodemic(インフォデミック)」と名付け、各国に警戒を促した。

 店頭からマスクとトイレットペーパーが消えたという冗談のような、ただし笑えない笑い話がこの国にも発生したが、今日におけるパンデミックの脅威はこのインフォデミックに下支えされることにその特徴がある。