昨年6月14日、大阪府の天満駅近くでカラオケパブ「ごまちゃん」を経営する稲田真優子さん(当時25歳)が首や胸など、10箇所以上も刺された惨殺遺体で発見された。この事件の論告求刑裁判が、10月12日に大阪地方裁判所の201号法廷(大寄淳裁判長)にて行われた。
宮本浩志被告(57)に対して、検察は無期懲役を求刑。被害者がひとりの殺人事件の被告に対する量刑としては極めて重い部類に入るだろう。
ごまちゃんの常連客のひとりであった私は、宮本被告とは店で幾度も顔を合わせていた。店内が客であふれかえっている時はジッと押し黙って「いいちこ」の薄い水割りを飲み、客が少ない時にはカラオケを独占する姿をよく覚えている。この裁判でも私は、被告人に近い傍聴席最前列に座り、宮本被告の様子を観察した。黒々としていた頭髪には白髪が目立ち、マスクから飛び出したあごひげは仙人のよう。裁判を重ねるごとに逮捕前より、老け込んだ印象は強くなっていった。
初公判では罵声を浴びせた稲田さんの兄が頭を下げて…
論告求刑の日、法廷内に緊張が走ったのは真優子さんの兄・雄介さんが意見陳述を行っていた時だ。
「真優子の冥福を祈るためにも、まずは罪を償う土俵に上がって欲しい。しっかり罪と向き合い、反省をし、償って、被告が真人間になったら、仏壇もちゃんと用意できていない実家ですが、線香を立てて、真優子の冥福を祈って欲しいと思っています。被告への憎い感情を押し殺して重ねてお願い申し上げます」
椅子に座って陳述していた雄介さんが突然立ち上がると、警備の警察官も咄嗟に立ち上がり、不測の事態が起きれば被告人と雄介さんの間に入ろうと身構えた。法廷内に椅子が揺れる音が響く。
しかし雄介さんは、被告に対して深々と頭を下げた。
「どうかこれ以上、真優子を傷つけないで、安らかに休ませてあげてください。お願いします」
雄介さんは9月の初公判で、黙秘を貫く宮本被告に罵声を浴びせていたが、判決を前に憤怒の感情を捨てて被告人に頭を下げたのだ。そんな雄介さんに対して宮本被告は目を合わせようとはしなかった。
その後、検察は論告の中で、「被告人が被害者を殺害した犯人であることは証拠によって十分に証明された」と主張し、それを裏付ける理由を次々とあげていった。(筆者要約)