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「被告人は多数回に渡って顔面を殴打し、刃物で体の各部を突き刺すなど犯行は執拗かつ残忍です。さらに体の重要な部位ばかりを刃物で攻撃しており、強固な殺意に基づく犯行であることは明らか。(中略)本件犯行は必死の行動をとる被害者を一方的に殺害した無慈悲な犯行です」

亡くなった稲田真優子さん

 続けて粘着テープを事前に購入し、見つかってはいないものの凶器となる刃物を持参していた点により、あらかじめ計画していた犯行だと指摘。また防犯カメラを取り外し、SDカードを抜き去り、携帯電話をアルミホイルで包んで連絡がとれない状態を作り、さらには犯行後に被害者の携帯電話に店が閉まっていることを案じるLINEメッセージを送るなどして偽装工作をはかったことで、周到に準備された犯行であったと付け加えた。そして——。

「想像してみてください。鋭利な刃物で首や胸を何度も刺される痛み、絶望感。想像を絶するものがあります。(中略)被告人は『死刑を望む』などと述べながらその理由は説明せず、事実関係についてなんら述べず、公判を通じて一方的な自己の言い分だけを述べ続け、この裁判を終えようとしています。誠に身勝手であり、自身の行為と真摯に向き合おうとする姿勢は皆無であり、反省の情は微塵も窺えません。本件は同種の事案の中でも、最も重い部類に属するもので、被告人が行った行為は有期懲役刑で評価できるものとはとうてい言えず、人生のすべてを賭けて償うべきものである」

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 そういって検察官は最後に、「被告人を無期懲役に処するのが相当であります」と告げた。

亡くなった稲田真優子さん

「国家が人を殺すのは、何百人、何千人、何万人であっても罪になりません」

 論告求刑の前日、私は真優子さんの母・由美子さん(65)と話すことができた。検察の求刑の見通しを尋ねると、由美子さんはこう答えた。

「私たちにもそれは教えていただけないんです。20年ぐらいでしょうか……」

 より重い刑を望んでいた遺族にとって、検察の下した無期懲役を求刑するという決断は胸をなでおろすものだったことだろう。

 一方の宮本被告は、検察の論告の間も右隣に座った弁護人と時折会話を交わし、不満を募らせている様子だった。そして論告求刑裁判の最後に証言台の椅子に座った宮本被告は、法廷内にこの日最大の困惑をもたらした。

 初公判以降、時折、検察の批判をすることはあっても、認否に関しては黙秘を続けた被告人が突然饒舌になり、およそ50分にわたって独演会を始めたのだ——。

「国家が人を殺す(死刑)のは、何百人、何千人、何万人であっても罪になりません。これほど他に迷惑をかけない死に方はない。何卒、来週の判決(10月20日)は死刑を……宣告していただきたいと思っています」